レイドリフト・ドラゴンメイド 第10話 カーリのパラドックス
コンコン コンコン
眠るシエロは、誰かが頭を叩く感触で目覚めた。
堅い物が、とても弱い力で何度も。
止めてくれ。母さんもきれいだと言ってくれた、金髪がグシャグシャになるじゃないか……。
そう思って見をよじるが、叩く衝撃はしつこくついてくる。
「起きなさい。シエロ・エピコス君。あなたが一番やさしく殴られたようですよ」
心地よい眠気でぼんやりした頭に、涼やかな女の声が響いた。
シエロが知らない声だ。
今、シエロはとても充実した気分だった。
体は疲労感もなく、暖かな布団の中でリラックスしている。
まぶたの向こうからは、昼間の太陽の光。
そして傷のことも、何の事だか分からなかった。
分からなかったのだが。
「痛い! 」
寝返りを打った途端、右の頬に激痛が走った!
頭を叩いていた者の仕業だと思った。
「痛い! 痛いのだよ! 」
やわらかく暖かい毛布を押しやり、両腕を振り回して打撃の主を追い払おうとする。
だが寝ぼけ眼では、体も悔しいほどぎこちない。
あわてて目を開くと、顔の横に奇妙な動くものを見つけた。
手のひらサイズの緑色の影。
人型ロボットが両腕をぐるぐる回している。
「このっ! 」
シエロはロボットを捕まえようと、手をのばした。
だがその腕に、激痛が走る。見れば、その腕には点滴の管が差し込まれていた。
その隙にロボットは背を向けて逃げ出した。
その尻には細長い尾が揺れ、四つん這いになって走る。
猿のロボットだった。
だがシエロの視線は、その背中にくぎ付けになった。
「ラン……ナフォン……? 」
真脇 達美が自分のランナフォンを見せながら言っていたことを、何とか思い出せる範囲でならべてみる。
元は、地球でヒーローとよばれる者たちに向けて作られた携帯電話。
戦闘に巻き込まれて破壊されないよう、動物を模した逃げる機能を持つ。
複数用意すれば、一個をコントローラーにすることでカメラやマイクもついた無人偵察機としても使える。
背中にあるのがスマホとも呼ばれる携帯電話。
厚さが3ミリしかない柔らかな有機半導体を土台に、蛍の光のような発酵作用を持つ有機物を利用して画像を表示する、布のようにしなやかな有機ELディスプレー。
それにカバーがついている。
「ここは……どこだ……? 」
シエロは、まだぼんやりした目で見まわした。
横には、自分が指揮している兵士たちが並んでいる。
腕や足を、いかにも間に合わせな鉄パイプや三角巾、包帯で固定され、全員が点滴を受けていた。
並ぶベッドは、ほぼすべてが埋まっている。
その間を、大勢の白衣の医師たちが患者を診ている。
ベッドの布団に、違和感があった。
前見た時、このベッドは長年の使用で破れ、つぎはぎだらけになった布団が乗っていたはず。
それが、真新しい緑色のマットの上に、きれいな毛布を掛けられて寝かされていた。
点滴の薬が入っているのも、ガラス瓶ではなく透明な布のような……ビニール。と、シエロは思い出した。
そもそも、これほどの数の薬品が、この基地に備蓄されているわけがなかった。
布団も薬品も、日本の物だと悟った。
「ここは、司令部中枢に近い、医療センターです」
再び女の声。
スピーカーを通した濁りもない、自然な声だ。
と同時に、話しかけてきそうな女の姿がないことに気付いた。
(まさか、幻聴!? いや、待て! )
シエロ・エピコスは落ち着いて考えることにした。
自分は、チェ連軍のヴラフォス・エピコス中将の三男。
父は高山地帯や北極などでの戦闘を主にする、極限地師団の指令。
自分は士官学校に通う18歳だが、この基地への応援として送り込まれた。
異世界人の少年たちと同じ年頃の交渉係として。
現在の役職は、司令部中枢の守備小隊長。
とはいっても、若年兵や地元の地域防衛隊を35人集めた急増部隊だが。
地域防衛隊とは、普段は他の仕事をしながら、有事の際は武器を持って戦う非常勤の特別職地方公務員だ。
実態は実際に活動した時のみ報酬が支払われる、事実上、日当制のアルバイトである。
確かに、この白いペンキがはがれた天上や壁も、4列に並ぶ40人分の錆びたベッドも、医療センターだ。
天井に、見慣れないものを見つけた。
薄くて丸い板のようなものが、金具で取り付けられている。
それが裸電球の変わりに、太陽の光だと間違えた明るい光を放っていた。
LEDランプ、と言う言葉をシエロは知らなかった。
そして、話しかけている相手は……。
たずねようとした時、目の前を赤い鳥が横切った。
鳥ではない。またランナフォン。
赤い物は、鋭いくちばしを持つワシ型だった。
黒いカブトムシ型やクワガタ型もいる。
黄色い羽を持つチョウチョウ型。青く細長い体のトンボ型。
シエロは自分のまわりの床を見て、さらにぎょっとした。
緑の猿型だけではない。
白いイヌ型。
茶色いウシ型。
そのほか、様々な動物の姿をしたランナフォンが、1メートル間隔で走り回っている!
壁際には、パワードスーツを着て銃を持った見張りが立っている。
そのアーマーは、シエロ達にとって忘れることのできない、ドラゴンマニキュア・マーク4。
それにドラゴンドレスやオーバオックスなど、ロボットパイロット向けに改造を施された、マーク4P。
簡易とはいえ、3センチの防弾セラミックプレートで守られている。
それに、頭全体を覆い、ガスマスクと無線・映像表示機能も備えたフルフェイスのヘルメット。
ついでに言えば、今はポーチに収まっているが、背中から伸びる短いホースがある。
このホースは、スーツとロボットに搭載された装置から温度を調整した水か湯を循環させることで、着用者の体温を調整するものだ。
見張りのマニキュア4Pは全部で3着。それぞれ赤、シルバー、青に塗られていた。
中枢を襲ったオーバオックスと同じ色だ。
マニキュア4Pが持つ銃。
オーバオックスのメイン火器でもある、RG9アサルトライフルに、異能力への対抗手段を施した、RG9S。
SはSecred。聖なる改造と言う意味だ。
銃の機関部に、左右から2つの弾倉を収めるようにした。これにより、銃その物が十字架の意味を持つ。
艶のない黒い弾倉には、通常目標用のタングステン弾が。きらびやかな銀色の弾倉には十字架に使われた銀で作られた聖なる弾丸が込められ、状況によって切り替える。
赤いマニキュア4Pの銃には、オプションが追加されている。
レールガンのまわりに並んだ、6本の突起。
これ一本一本が、レーザー兵器だ。
ただ相手を焼き切る武器ではない。
一定距離を跳んだレーザー同士を衝突、干渉させ、四方八方にレーザーをまき散らす。
(確か名前は、ドラゴンの清流)
シエロは、ショックだった。
達美が言っていた事が悉くただしかった!
(すると、ここにいるのが……メイトライ5! 達美以外の全員がそろっている! )
医師や看護師たちは、それを気にすることもなく働く者と、びくびく怯えながら働く者がいる。
眠るシエロは、誰かが頭を叩く感触で目覚めた。
堅い物が、とても弱い力で何度も。
止めてくれ。母さんもきれいだと言ってくれた、金髪がグシャグシャになるじゃないか……。
そう思って見をよじるが、叩く衝撃はしつこくついてくる。
「起きなさい。シエロ・エピコス君。あなたが一番やさしく殴られたようですよ」
心地よい眠気でぼんやりした頭に、涼やかな女の声が響いた。
シエロが知らない声だ。
今、シエロはとても充実した気分だった。
体は疲労感もなく、暖かな布団の中でリラックスしている。
まぶたの向こうからは、昼間の太陽の光。
そして傷のことも、何の事だか分からなかった。
分からなかったのだが。
「痛い! 」
寝返りを打った途端、右の頬に激痛が走った!
頭を叩いていた者の仕業だと思った。
「痛い! 痛いのだよ! 」
やわらかく暖かい毛布を押しやり、両腕を振り回して打撃の主を追い払おうとする。
だが寝ぼけ眼では、体も悔しいほどぎこちない。
あわてて目を開くと、顔の横に奇妙な動くものを見つけた。
手のひらサイズの緑色の影。
人型ロボットが両腕をぐるぐる回している。
「このっ! 」
シエロはロボットを捕まえようと、手をのばした。
だがその腕に、激痛が走る。見れば、その腕には点滴の管が差し込まれていた。
その隙にロボットは背を向けて逃げ出した。
その尻には細長い尾が揺れ、四つん這いになって走る。
猿のロボットだった。
だがシエロの視線は、その背中にくぎ付けになった。
「ラン……ナフォン……? 」
真脇 達美が自分のランナフォンを見せながら言っていたことを、何とか思い出せる範囲でならべてみる。
元は、地球でヒーローとよばれる者たちに向けて作られた携帯電話。
戦闘に巻き込まれて破壊されないよう、動物を模した逃げる機能を持つ。
複数用意すれば、一個をコントローラーにすることでカメラやマイクもついた無人偵察機としても使える。
背中にあるのがスマホとも呼ばれる携帯電話。
厚さが3ミリしかない柔らかな有機半導体を土台に、蛍の光のような発酵作用を持つ有機物を利用して画像を表示する、布のようにしなやかな有機ELディスプレー。
それにカバーがついている。
「ここは……どこだ……? 」
シエロは、まだぼんやりした目で見まわした。
横には、自分が指揮している兵士たちが並んでいる。
腕や足を、いかにも間に合わせな鉄パイプや三角巾、包帯で固定され、全員が点滴を受けていた。
並ぶベッドは、ほぼすべてが埋まっている。
その間を、大勢の白衣の医師たちが患者を診ている。
ベッドの布団に、違和感があった。
前見た時、このベッドは長年の使用で破れ、つぎはぎだらけになった布団が乗っていたはず。
それが、真新しい緑色のマットの上に、きれいな毛布を掛けられて寝かされていた。
点滴の薬が入っているのも、ガラス瓶ではなく透明な布のような……ビニール。と、シエロは思い出した。
そもそも、これほどの数の薬品が、この基地に備蓄されているわけがなかった。
布団も薬品も、日本の物だと悟った。
「ここは、司令部中枢に近い、医療センターです」
再び女の声。
スピーカーを通した濁りもない、自然な声だ。
と同時に、話しかけてきそうな女の姿がないことに気付いた。
(まさか、幻聴!? いや、待て! )
シエロ・エピコスは落ち着いて考えることにした。
自分は、チェ連軍のヴラフォス・エピコス中将の三男。
父は高山地帯や北極などでの戦闘を主にする、極限地師団の指令。
自分は士官学校に通う18歳だが、この基地への応援として送り込まれた。
異世界人の少年たちと同じ年頃の交渉係として。
現在の役職は、司令部中枢の守備小隊長。
とはいっても、若年兵や地元の地域防衛隊を35人集めた急増部隊だが。
地域防衛隊とは、普段は他の仕事をしながら、有事の際は武器を持って戦う非常勤の特別職地方公務員だ。
実態は実際に活動した時のみ報酬が支払われる、事実上、日当制のアルバイトである。
確かに、この白いペンキがはがれた天上や壁も、4列に並ぶ40人分の錆びたベッドも、医療センターだ。
天井に、見慣れないものを見つけた。
薄くて丸い板のようなものが、金具で取り付けられている。
それが裸電球の変わりに、太陽の光だと間違えた明るい光を放っていた。
LEDランプ、と言う言葉をシエロは知らなかった。
そして、話しかけている相手は……。
たずねようとした時、目の前を赤い鳥が横切った。
鳥ではない。またランナフォン。
赤い物は、鋭いくちばしを持つワシ型だった。
黒いカブトムシ型やクワガタ型もいる。
黄色い羽を持つチョウチョウ型。青く細長い体のトンボ型。
シエロは自分のまわりの床を見て、さらにぎょっとした。
緑の猿型だけではない。
白いイヌ型。
茶色いウシ型。
そのほか、様々な動物の姿をしたランナフォンが、1メートル間隔で走り回っている!
壁際には、パワードスーツを着て銃を持った見張りが立っている。
そのアーマーは、シエロ達にとって忘れることのできない、ドラゴンマニキュア・マーク4。
それにドラゴンドレスやオーバオックスなど、ロボットパイロット向けに改造を施された、マーク4P。
簡易とはいえ、3センチの防弾セラミックプレートで守られている。
それに、頭全体を覆い、ガスマスクと無線・映像表示機能も備えたフルフェイスのヘルメット。
ついでに言えば、今はポーチに収まっているが、背中から伸びる短いホースがある。
このホースは、スーツとロボットに搭載された装置から温度を調整した水か湯を循環させることで、着用者の体温を調整するものだ。
見張りのマニキュア4Pは全部で3着。それぞれ赤、シルバー、青に塗られていた。
中枢を襲ったオーバオックスと同じ色だ。
マニキュア4Pが持つ銃。
オーバオックスのメイン火器でもある、RG9アサルトライフルに、異能力への対抗手段を施した、RG9S。
SはSecred。聖なる改造と言う意味だ。
銃の機関部に、左右から2つの弾倉を収めるようにした。これにより、銃その物が十字架の意味を持つ。
艶のない黒い弾倉には、通常目標用のタングステン弾が。きらびやかな銀色の弾倉には十字架に使われた銀で作られた聖なる弾丸が込められ、状況によって切り替える。
赤いマニキュア4Pの銃には、オプションが追加されている。
レールガンのまわりに並んだ、6本の突起。
これ一本一本が、レーザー兵器だ。
ただ相手を焼き切る武器ではない。
一定距離を跳んだレーザー同士を衝突、干渉させ、四方八方にレーザーをまき散らす。
(確か名前は、ドラゴンの清流)
シエロは、ショックだった。
達美が言っていた事が悉くただしかった!
(すると、ここにいるのが……メイトライ5! 達美以外の全員がそろっている! )
医師や看護師たちは、それを気にすることもなく働く者と、びくびく怯えながら働く者がいる。
作品名:レイドリフト・ドラゴンメイド 第10話 カーリのパラドックス 作家名:リューガ