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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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俺のつまらない脳内会話

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「なんかさぁ、お前の話つまんないんだよね」

「えっ?」

友達に指摘されてドキッとした。
テレビは毎日見ているし、ネットも欠かしたことない。
冗談の切れ味も自信があるしツッコミも定評がある。

なのに、話がつまらないってどういうことだ!



「……ようこそ、脳内人格屋さんへ」

枯れ木みたいなおばあちゃんのいる店に寄った。
俺のような頭のキレるスマート人間には
一生縁のないような店だと思っていたが確かめるしかない。

「じゃあ、これをください」

「"キャバクラ女王"の脳内人格ですね。
 こちら1000円になります」

キャバクラ女王の脳内人格を入れて、さっそく会話してみる。
別の人と話をすれば自分の欠点も見えてくるだろう。

"こんにちは"

"こんにちは~♪ 私ぃ、モモっていいますぅ~"

見た目には俺が黙っているようにしか見えないが、
俺の脳内には女の声がきちんと聞こえている。

"実は友達に俺の話がつまらないって言われて……"

"そんなことないですよぉ~"

"え、あ、そう?"

"そうですよぉ~。私も友達から話がつまらないってよく言われるんですぅ。
 でもぉ、それって結局聞いている人の感想じゃないですかぁ。
 私はそういうの違うと思うんですよねぇ。
 あ、でもそういう意見もあっていいとは思うんですけどぉ。
 だってぇ、世間にはいろんな人がいるじゃないですかぁ。
 私とやっぱり話が合わない人もいるからぁそういうのは仕方ないってぇ"


俺はすぐに人格との会話を中断した。

「おやおや、気に入らんかったかぇ?」

「長いんだよ!! 話が長いんだよ!!
 それに、俺の言葉毎回肯定するからぜんぜん参考にならないし!」

「はぁ、お客様は脳内人格にどうしてほしいんです?」

「俺がなんで話がつまらないのかを突き止めてほしいんです!!」

「でしたらこれを」

店主が差し出したのは、さっきよりも安い人格だった。

「同年代の友達の脳内人格です」

「いや、これさっきのキャバクラより安いじゃないですか。
 さっき以上の意見が聞けるとはとても思えませんよ」

「とりつくろわない意見は同年代から聞けるものです」

「……まあ、そうかも」

確かに同年代の友達が感じたことであれば、
同じく歳の近い人格なら同じ意見を持つかもしれない。

さっそく試してみた。

"よぉ、ちょっと聞きたいんだけど"

"どうしたんだよ急に。なんか面白い話か?"

"ああ、まあそんなところ"

ここで俺は最高の爆笑ネタを話してやった。

"で、どうだった? 俺の話"

"ああ、面白かったよ"

"ほらな! やっぱりな! 俺の話がつまらないなんてことなかったんだ!"

"いや、ちげーよ。そのエピソードトークは楽しいよ。
 でもお前の普段のしゃべりはクソつまらないんだよ"

"はああああ!?"

どういうことだよ!?
怒りのあまりすぐに人格との会話を中断。

「気に入りませんでした?」

「もうこの店の人格なんて信用できるか!
 どれもこれもパッとしないものばっかりで!!」

店を出て、ケータイで別の店を探すと近くに1件見つかった。
内装もきれいでいかにも質のよさそうな人格が買えそうだ。

「いらっしゃいませ」

「あの、俺の話がつまらないってことで人格探しているんです。
 俺のトークの欠点を見つけるとともに、
 コミュニケーション能力を上げればなって……」

「お客様、うちで紹介できる人格は1点のみです」

「へっ?」

「すでに誰かの人格をコピーしたものを、
 あなたの頭に入れても脳内でケンカしてしまいます。
 ですから、うちではまっさらな人格をご用意しております」

店主から出された人格を入れてみる。

"やあ、こんにちは。
 あなたがまっさらな人格なんだね"

"そうなの?"

"ああ、そうなんだよ。そう聞いているし。
 でさ、ちょっと俺の話を聞いてほしいんだ"

"うん、いいよ"

 ・
 ・
 ・

"で、どうだった? 俺の話は?"

"君はどうだと思ってるの?"

"俺は……俺は別に悪いとは思ってない。
 こうして話すほどに落ち度は友達にあるように感じてならない"

"そうかもね"

"だよな! やっぱりそうだよな!!"

店主はニコニコしてやってきた。

「まっさらな人格はいかがですか?」

「これはどういう人格なんですか?」

「あなたの話を聞く人格です。
 なにかを発信することはありません、ただ聞き続けます」

「いやぁ、すごく話しやすくって最高ですよ!」

まっさらな人格に俺はすっかりハマっていた。

電車の待ち時間に話を聞いてもらう。
退屈な時間に話を聞いてもらう。
寝る前のちょっとした時間に話を聞いてもらう。

まっさら人格は否定もしないし肯定もしない。

"そうなんだ。でも、もっと聞かせて"

そればかり言うので、俺も気持ちよく話せる。
やっぱり問題だったのは俺じゃなくて、友達だったんだ。


あるとき、まっさらな人格が初めて声をかけてきた。

"ねえ、なにか話はないの?"

"え、話? 特にないけど……"

"どうして?"

"どうしてって……もうだいぶ話したじゃないか"

"そうなんだ。でも、もっと聞かせて"

すでに過去のネタは使い切っていた。
話すネタなんてとっくにない。

思えば、俺の考えていることは垂れ流すように
この人格に語って聞かせていたからもう……。

"悪いけど、もう少し待ってくれよ"

"そうなんだ。でも、もっと聞かせて"

"もう俺のネタがないんだって!
 そんな毎日ぽんぽん話すことあるわけないだろ!"

"そうなんだ。でも、もっと聞かせて"
"そうなんだ。でも、もっと聞かせて"
"そうなんだ。でも、もっと聞かせて"

"もう全部話したんだよ!! もう俺のすべてを話したんだ!!"

"そっか……"





"じゃあ、もう僕が君になっても問題ないよね"


※ ※ ※

前の人格の情報はすべて吸い出しつくした。
クセから口調、考え方のパターンまですべてだ。

当然、同じ体で人格をすり替わっているなんて誰も気づきはしない。

「なあ、お前の話ってさぁ……」

「なに?」

「最近すげー楽しいよなぁ、一緒にいて退屈しないよ。
 いつもいろんな話題をぽんぽん出しているし」

「ああ、僕だけの話題なんてたかが知れているからね。
 みんなの話を聞いてればネタに困ることはないよ」

僕は話しやすそうな笑顔を友達に向けた。
すると、友達は待ってましたと楽しげに僕に話をしてくれた。


「そうなんだ。でも、もっと聞かせて」

ネタが増えるお礼もかねて、僕は笑って言った。