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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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10億円を持ったホームレス

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 沙希は高校を卒業し、地元の函館で和菓子の工場に努めたが、2年で退職し、パチンコ店に勤めた。単純に給料が良かったからである。その店で知り合った男と同棲を始めたが、金づかいが荒く、逃げるように札幌に来た。荒れた気持ちを癒したのは、オシャレやショッピングであった。それを満たすのは金が必要であったから、沙希はホステスになったが、それよりも金の取れるデリバリーガールを選んだ。こちらは昼間からその気になれば仕事があった。取り分は4分6で沙希が6割貰えた。1回で2万6千円になった。50万円取るのは楽であった。1度味わった旨さは忘れられない。沙希は幸せを感じられる今を精いっぱい生きようと考えていた。男と寝ることも沙希は罪悪感は感じなかった。むしろ同棲した時よりも性行為が楽しくさえ感じていた。沙希は客を選ぶことが出来た。気に入らない客であれば沙希は断ってしまった。客から苦情が来れば、店はうまくつくろって代りの女性を派遣した。客の中には恐い世界の人たちもいた。もちろん沙希は断るが、裸になってから気づいた時は身を任せた。蛇の刺青が生き物のように身体に喰い込んできたとき、恐怖と同時に悦びを感じた。
それ以来男からの恐怖心は消えた。
 沙希は女優のように演技も出来た。だから、吉沢に自分の過去を話したとき涙を滲ませた。後悔はしていないつもりであった。でも、初めて自分を振り返ってみると、自分の事を人に話してみると、幸せと感じていたはずの自分が惨めに思えた。
「バッグはいらないよ。この話は全部作り話」
「沙希は本当は何の仕事がしたい」
「和菓子屋でもいいかな」
「明日10時にホテルに来てくれないかな」
「今日は延長しないの」
「ここで別れよう。明日忘れないで」
 吉沢は偶然に出会った沙希に本当の幸せを味わわせたかった。明日は不動産業者から店舗の契約を済ませ、和菓子の職人を探してみようと思った。ホテルの滞在中に出来れば良いなと思いながら、眠りに就いた。