宗教生産工場のアルバイト
「どうした急に」
ベルトコンベアで流れてくる神を組み立てて
次のラインにうつしていく作業。
ラインの最後にはちゃんと宗教ができているという寸法だ。
「毎日、宗教を作っているとさ
宗教ってこんなに大量にあるからいけないだと思うわけ」
「はあ」
「みんなが信じたくなるような宗教がひとつだけあれば
争いなんてなくなるんじゃないかなって」
「あのな、偉くて賢い人が
ずーっとずーーっと悩みまくっているのに
いまだに争いはなくならないんだ。そう簡単に解決するか」
「やってみる価値はあるだろう?」
男はさっそくラインのスタートへと向かって、
自分で宗教の設計図を作り直した。
複雑にするのもいけないので、教えはたったひとつ。
"絶対に争いをしてはいけません"
「この宗教ならみんな信仰してくれる!
そうなればきっと平和になるぞ!」
宗教の出荷を終わらせると、予想通り大人気になった。
誰もがこの宗教の教えを深く信仰するように。
でも、いっこうに争いはなくならなかった。
「おかしなぁ、みんな宗教を信じているのに。
争いはなくなるどころか激化しているぞ」
「お前のせいだよ。
"争いをなくすために、争いの火種をつぶす"ってことで
争っているんだよ、彼らは」
「えーー! なんだよ、そのとんちんかんな解釈は!」
「だから言っただろ。
この世界から争いをなくすなんて簡単じゃない。
まして、俺たち凡人ができることじゃないんだ」
「いいや、諦めない。まだなくす方法はあるはずだ」
男は宗教を書き換えて別のものに切り替えた。
問題なのは単純さゆえに、誤解させてしまうことだった。
今度は逆に、厳しいルールを設けた。
"毎日10分おきに、神の方角に土下座しましょう"
「これでばっちりだ!」
「なんだそのルール」
「いちいち10分おきに土下座なんかしてたら
争いを続けることなんてできないだろう?」
「ああ、そうかもしれないが……」
出荷後の様子を見てみると、
たしかに争いは減ったものの厳しい縛りのせいで
ほとんどの日常生活が送れなくなっていた。
「これじゃ人間は自然消滅するぞ」
「でも1時間にすると縛りが緩すぎて
争いの余地が残っちゃうからなぁ……」
宗教を自主回収すると、腕を組んで悩んだ。
「うーーん、どうしても争いはなくならないなぁ」
「もうあきらめろ。
争いをなくすには、時間をかけた完璧なアイデアが必要だ。
それは誰でも思いつくようなことじゃないんだ」
「……そうだ! 思いついた!」
「おいおい、今度はなにをする気だよ」
男はコンベアの上流に向かうと、
設計図を調整し直すどころかコンベアに寝転がった。
「俺が神になれば解決できる!」
「はあああ!?」
コンベアが動き出して、男を神へとコーティングしてしまった。
その奇行に同僚の顔は真っ青になる。
「自分が神になるって……そんなの上手くいくわけない!
怪しい宗教の教祖と同じだろ!
いったい何する気だよ!?」
同僚の予想通り、神の力を手に入れたところで
こんな怪しすぎる宗教を信じる人なんていなかった。
それどころか、信じる人を小馬鹿にする勢力も出てきて
争いはさらに激化した。
「ほら見ろ、やっぱり失敗したじゃないか!
神になっていったい何がしたかったんだよ!」
「ああ、それならもうやったよ」
「え?」
男は神の力を1回だけ使った。
すると、世界からは一瞬で争いが消えた。
「いったい何をしたんだ?
さぞや、賢くて崇高で悩みに悩まないと出ないことなんだろ?」
「いや、簡単さ。
与えた痛みを自分にもはね返ってくるようにしただけさ」
世界から二度と暴力を振るう人間はいなくなった。
作品名:宗教生産工場のアルバイト 作家名:かなりえずき