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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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ネクロマンサーOLの婚活

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「私と彼で新年に婚約しようって決めたんですぅ」
「なるほど」

「彼も私の気持ちを嬉しいって言ってくれて、
 私も新年をふたりの新しい門出にしようって思ってぇ」

「いや、それ死体ですよね」

市役所の職員はごくごく普通にツッコんだ。
女が腕を組んで連れてきた男は完全に死んで血の気がない。

「私、ネクロマンサーを仕事にしてるじゃないですかぁ。
 それで、術をかけ続けて生かしているんです。
 だから死んでません。ええ、死んでませんよ」

「困りますね、最近多いんですよそういう人」

職員はやれやれと長い説明をはじめた。

「仕事で婚期を逃した女性がネクロマンシーに就職して、
 そこで理想の男を墓から引っ張り出して復活させる。
 男は死んでるからしゃべれないから結婚もスムーズ、ってね」

「それの何がいけないの?」

「二人の思い出がないじゃないですか。
 あなたがやってるのはぬいぐるみとの結婚ですよ」

「むぅーー……」

「市役所では死体との結婚をたしかに認めてはいます。
 でも、それは生前お互いに思い出がある場合にのみ、です。
 恋人を蘇生して結婚することはできても
 他人を蘇生して結婚することはできないんです。ルールですから」

「なによ! 思い出さえあればいいのね!」

女はぷりぷり怒って帰ると、
さらに仕事にせいを出してネクロ技術に磨きをかけた。

これまでのようにただ蘇生するのではなく、
完全に生前の状態になるよう蘇生させた。

「できたわ! これなら二人の思い出が作れる!」

「ウィーーッスwwwwwwウェーーーイwwwww
 あれ? 俺死んだんじゃないっすか?wwwwwwww
 あんたが生き返らせてくれたんッスかwwあざっすwwwww」

女はすぐに死体へと戻した。

「何こいつ……しゃべり方めっちゃチャラいじゃん……」

イメージとの落差についていけず、女は別の男を探す。

けれど、どれだけ探しても完全に蘇生させたが最後
黙っている死体の時との落差で
女の結婚願望をどんどん萎えさせるばかりだった。

「もう! どうして男ってこう蘇生させると
 急に幻滅するようなことばかりするのよ!
 これじゃあいつまでもネクロマンサーのままよ!」

ただでさえ、この職業であることに焦りを感じているのに。
同級生からは「まだ結婚しないの?」と哀れみを向けられ、
親からは「うちの子心配だわぁ」と社会不適合者に扱われる。

早く結婚しないとと思っていても、
完全蘇生させた男とは思い出を作る気にもなれない。

「ああ……いったいどうすればいいの……」

男がぐちゃぐちゃボロを出さずに
キレイなままの存在で結婚できる方法はないものか。

そんなことを考えながら食事をとっていたとき。

「……そうよ!
 死んだままでも、思い出を作る方法はあるわ!」

女はネクロマンサーをこじらせまくった結論を思いついた。





「あの人、今日も残業しているよ」
「火が付いたように働いてるけどどうしたんだろう」
「ネクロマンサーの仕事がそんなに好きなのかな」

同僚が驚きの視線をなげかけるなか、
女は誰よりもネクロマンサーの仕事を進めていった。
その結果、ついに女の願っていた術を完成させた。

「これで、死にながら思い出が作れるわ!」

さっそく術を使うと、死体に残ったままの魂が自分の体に入る。
見た目には何の変化もないけれど、
女の体には男の魂が入り込んでいる。

女はその2つの魂を持った状態で、
テーマパークやデートスポットを一人で回った。

「これで私と彼との思い出が魂に刻まれたわ!
 あとはこの魂を死体に戻せば、
 私との思い出がある死体ができる!」

ついに念願の結婚が手の届くところに見えてきた。

女はさんざん思い出を作ってから、
ネクロマンサーの術で移した魂を死体に戻した。

その足で市役所に乗り込むと、
ふたたび婚約届を窓口にたたきつけた。

「さあ、これで文句はないわよね。
 彼には私との思い出がたぁっぷりと詰まっているもの♪」

職員はなんども書類に不備がないかを確認し、
追い返す材料がどこにもないことを悟ってあきらめた。

「……負けましたよ。婚姻届けを受理します」

「やったわ! これで私はもう売れ残りなんかじゃない!
 私も人妻になれたのよ! みんなと同じなのね!」

女は人目もはばからずに大喜びした。

ひとしきり喜びを全身で表現した後で会社に戻り
ずっと言いたかった言葉をみんなに聞こえるように叫んだ。


「みなさん、私は一足先に寿退社します!!」

ネクロマンサーに就職してからずっと言いたかった言葉。
これを言うためだけにずっとやってきた。

女は優越感たっぷりに退職した。




退職でネクロマンサーの術が使えなくなり、
死臭漂う死体と長い長い共同生活がはじまることを
女はまだ知らない。