Fランクの明日が待っている
3マス。
3マス、明日すごろくを進めると
たどり着いたマスにはでかでかと「凶」の文字。
「明日はいいことないのかよ……」
翌日は覚悟していた以上に最悪だった。
上司には何時間も怒られるし、
犬のうんちは踏むし、車に泥はかけられるし、恋人には逃げられる。
「だ、大丈夫。
明日はきっといい運勢だ」
そう信じて今日もさいころを振る。
6マス。
6マス、明日すごろくを進める。
マスに書かれていたのは……やっぱり「凶」。
「またかぃ!!」
翌日は今日に負けず劣らずの最悪な日々だった。
なんでこんなことに……。
ろくに勉強もしてこなかったし、
とくに努力もしてこなかったわが人生。
なあなあの人生だったために、
俺の「明日すごろく」はFランクのすごろくボード。
マス目のほとんどに悪いことばかりかかれている。
努力を積み上げてきた人はきっと
もっといい明日すごろくボードなんだろうなぁ。
4マス。
「……おっ、吉だ!」
珍しくいいマスに当たった。
ちょっとした嬉しさがこれまでの日々との落差で
なおいっそう嬉しく感じる。
翌日、どんないいことがあるのかとウキウキしていると
中学生の時の同級生と偶然再会した。
「おお、久しぶり」
「久しぶり、今はIT企業のスーパーバイザーと
株式市場のバイヤーをしているんだ。お前は?」
「えっ……」
久しぶりの再会は感動というより劣等感を感じた。
同じ学校を出たのにこの差はなんだ。
「僕の明日すごろくボード、Bランクでさ。
もっと努力していればAランクになれたかと思うと悔しいよ。
きっとAランクの人たちは幸せなんだろうなぁ」
「あ、あぁ……そうだな……」
なにが吉だ。
思いっきり大凶じゃないか!
「僕は今日が「大吉」の日なんだ。
久しぶりにお前と会えてよかったよ。
こんな日がいつまでも続けばいいんだけどなぁ」
「そ、そうだな」
「それじゃな。お前も頑張れよ」
かつての同級生は
この後に待つ大吉の日々を期待しつつ去っていった。
そのとき、ぽろりと何か落としていった。
「あ、なにか落として……」
さいころだった。
Fランクの俺が振る安い紙さいころではなく
Bランクらしい象牙の高級なさいころ。
「……そうだ!」
さいころを持ち帰って、明日すごろくを広げる。
マス目は延々にどこまでも続いているように見える。
でも、最果ては確かにあった。
そして、最後のマスには……。
「大吉」
「最後まで進めれば、いくら振っても進まないから
毎日大吉の日々が送れるぞ!」
そして、俺の手には2つのさいころ。
かたやBランクのさいころは、
Bランクようのすごろくボードに対応しているため
進めるマス数も俺のさいころよりもずっと多くて多彩。
「この2つを使って一気に最後まで進めてやるぜ!」
2つのさいころを振って、
一気に明日すごろくを進めていく。
到着したマスがどんな運勢だろうと知ったことではない。
最後まで進めば最高の日々が待っているのだから。
・
・
・
「ついに……ついに来たぞ……!」
普通の人間では一生たどり着かないだろう最後のマス。
俺はついに最後のマスへと進むことができた。
大吉。
Fランクすごろくボードにはほぼない運勢。
明日を楽しみして俺は眠りについた。
ここからはどんな目を出しても、必ず最果ての同じマスにつく。
翌日は朝からいいことずくめだった。
『今日は会社が急きょお休みになりました』
『おめでとうございます! 宝くじが当たりました!』
『あなたが好きです、付き合ってください!』
「こっ、これが大吉! 最高じゃないか!」
最高の1日を味わい尽くしてから眠りにつく。
さいころを振ってどんな目が出ても、明日は同じく「大吉」。
『今日は会社が急きょお休みになりました』
『おめでとうございます! 宝くじが当たりました!』
『あなたが好きです、付き合ってください!』
「え……まさかこれ……働かなくてもいいのか!」
宝くじが当たったので、毎日収入に心配はない。
どれだけ遊んで暮らしても明日になれば、宝くじが当たる。
今日の終わりにさいころを振る。
もちろん明日は大吉。
『今日は会社が急きょお休みになりました』
『おめでとうございます! 宝くじが当たりました!』
『あなたが好きです、付き合ってください!』
さいころを振る。
明日はもちろん……。
『今日は会社が急きょお休みになりました』
『おめでとうございます! 宝くじが当たりました!』
『あなたが好きです、付き合ってください!』
『今日は会社が急きょお休みになりました』
『おめでとうございます! 宝くじが当たりました!』
『あなたが好きです、付き合ってください!』
『今日は会社が急きょお休みになりました』
『おめでとうございます! 宝くじが当たりました!』
『あなたが好きです、付き合ってください!』
『今日は会社が急きょお休みになりました』
『おめでとうございます! 宝くじが当たりました!』
『あなたが好きです、付き合ってください!』
・
・
・
「えっ? ホームレスのワシとすごろくボードを交換してほしい?
いいのかい? ワシのボードはZランクじゃよ?」
「ああ、頼むよ。お願いだ」
俺は見ず知らずのホームレスと、
明日すごろくボードを交換した。
「Zランクじゃから、大凶ばかりじゃよ?
それでもいいのかい?」
「毎日同じ日が続くよりはずっといい……」
俺はまだ先が残っているZランクボードを見て、
まだわからない明日へ期待を募らせた。
作品名:Fランクの明日が待っている 作家名:かなりえずき