英霊たちの派遣会社
「いや、その前にこの会社がどういうものなのか……。
この派遣会社がかかわった企業は
たちまち大躍進を遂げたと聞いてきたものですから」
派遣会社の受付には、
まるで音楽室のように肖像画が飾られていた。
けれど、音楽家だけではなく
日本から海外の有名な故人の顔がびっしりと置いてある。
「我々の英霊派遣会社では、
昔の天才を派遣している会社でございます」
「えと……」
「たとえば、ケンカの仲裁に坂本龍馬。
企業のポスターデザインにダヴィンチ。
複雑な計算の添削にはアインシュタインなど、です」
「なるほど! それはすばらしい!!
過去の天才に依頼すればとてつもないものができるぞ!」
この派遣会社を経由した企業の発展理由に納得がいった。
斬新なアイデアも、革新的な技術開発も
天才を派遣すれば一気に解決だ。
彼らの能力の高さは今この現代の発展が担保している。
「せっかくなので、一番の天才を派遣したいです。
これからのわが社をどうしていくのか
どういう戦略で、何をどう進めていくのか聞きたいんです」
「この中で一番は……ジョンですね」
「ジョン?」
「ジョン・フォン・ノイマン という英霊です。
1000万円ですが派遣しますか?」
「高っ!! いっ……1000万円!?」
けれど、悩む。
値段は高いけれど、それがかえって安心感を与えてくれる。
"これだけ値段をするんだから、
この英霊を派遣すればほかの企業に負けるわけがない"と。
アドバイザーにこれだけの金をかける人なんているわけない。
「……わかりました、何とかお金を用意します」
「ありがとうございます。
でしたら、この『かみくだ くうぞう』も派遣しませんか?」
「なんですかその"一緒にポテトもどうですか"のノリは。
いりませんよ、そんな知らない人」
「いや、でもおすすめですよ。安いですし」
「要りませんって! 絶対にいりませんよ!
翻訳も大丈夫ですから、変なの売りつけないでください!」
派遣会社を出た後は、会社でコツコツとお金を貯めはじめた。
なにせ派遣されてくるのは超天才。
凡才の社員全員をクビにしてでも雇いたい人材だ。
それから半年後、ついに1000万円が捻出できた。
「ああ、お久しぶりです。ようこそ英霊派遣会社へ」
「ノイマンを!! ノイマンを派遣してください!!」
カウンターに1000万円をたたきつけると、
男はにこりと笑って英霊を呼び寄せた。
「彼がノイマンです。ご利用ありがとうございました。
ところで、かみくだ……」
「そいつはいりませんって!! どんだけ売りたいんですか!!」
ノイマンと派遣会社を出ると、
さっそく意見を聞こうと準備していた資料を渡した。
もちろん、翻訳環境もばっちりだし
ボイスレコーダーに映像記録も準備ばんたん。
ここでの天才の一言一句を記録するつもりだ。
「さあ、ノイマン君。
わが会社をより発展させる方法を教えてくれ。
どんなものでも、どれだけの量でもかまわないよ」
ノイマンは資料をざっと読んだだけで、
天才に恥じない完璧なる答えを出した。
「この会社にはライスレッツ式思考と、
フィンラベンツリスキームを利用しての
構造的解析法の多元式応用を第二次境界で実演することで
他企業へのラバイバル効果と相乗的波及効果が期待できます」
「……え?」
天才過ぎてぜんぜんわからない。
説明を求めても、回答がすべて天才基準なので
当然理解が追い付くわけもなく……
数日後、もう一人が追加で派遣された。
「どうも。かみくだ くうぞう、です。
どんな説明もわかりやすく噛み砕いちゃいます」
男はノイマンの説明を聞いて、
ものの見事に噛み砕いて説明してくれた。
「つまり、ノイマンの言いたいことを一言でいうなら?」
「他人に頼るなボケ、です」