幻燈館殺人事件 中篇
* 序 *
花柄のワンピース。
白や青や黄。様々な色形の花があしらわれたそれは、普段着には派手、夜会服にはいささか下品。微妙と絶妙とを分かつ絶対線は、着る者次第。
一筋の煌きが花畑へと吸い込まれ、ゆっくりと新しい花を咲かせる。
吸い込まれた煌きは、一度花畑を離れたもののもう一度吸い込まれ、再び新しい花を咲かせた。
三つ。
四つ。
五つ。
赤い花。赤い花。赤い花。
赤い花は緩やかに花畑を侵蝕し、ついには花畑からも溢れ出す。
「どう…して……」
女は震えて自由に動かせぬ唇で、懸命に問い掛けた。
男は何も答えない。
女は男に問い掛ける。
女にはもう、声にするだけの力は残されていなかった。
唇を読むことができずとも、その表情を見れば言わんとすることが伝わってくる。
ただ美しかった。
懸命に足掻くその姿は、ひたすらに美しかった。
「綺麗だよ」
最後に、一筋の煌きが花畑へと吸い込まれた。
赤い花が歪に咲く。
「は…ぁ……」
女は果てた。
女の果て行くさまを見て、男も果てた。
作品名:幻燈館殺人事件 中篇 作家名:村崎右近