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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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並列化しないと親友じゃない!

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私たちは仲良し3人。
小学校も、中学校も、高校でも友達。

「ねぇ、私たち仲良しだから
 同じスマホカバーにしない?」

「賛成! 服装も全部一緒にしようよ!」

「そうだね、だって仲良しなんだもん♪」

双子のように服を合わせ、
同じ小物を手にして同じ髪型の私たち。

家族以上に家族らしいつながりを感じる関係だった。


「ねぇ、友達並列化って知ってる?」


ある日、真美がそう言いだした。

「ヘーレツカ? なにそれ?」

「お互いの気持ちをずっと一緒にできるんだって。
 嬉しい気持ちも、楽しい気持ちも
 一緒に並列化した友達に送れるみたいなの」

「やろうよ! だって私たち親友だもん!」

真美の説明を完全に飲み込めたわけではないものの、
私はあれよあれよと並列化することになった。

並列化はスマホのアプリで簡単にできて、
その気になればいつでも解除することができる。

「これで、よし。
 これで私たちの心は並列化されたんだね」

「どこにいても、何をしていても、ずっと一緒だね!」

「でも、特に変わったことはないね」

と思っていると、急にお腹が減ったのを感じた。
私じゃない。
これは……。

「真美、もしかしてお腹へってる?」

「えへへ……並列化したらなんでも筒抜けだね。
 実は朝ごはんダイエットで抜いてきたの」

「わぁ! これが並列化なんだね!
 私たちお互いの気持ちが流れてくるよ!」

嬉しい気持ちが私にも流れ込んできた。
楽しいことや嬉しいことを10倍、いや100倍にしてくれる並列化。
私はどうしてもっと早くやらなかったんだろう。




並列化から数日後、並列化の嫌な部分が見えてきた。

「あぁ! もうむかつく!
 あの先生、スカートの丈くらいでなんなのよ!!」

今日は朝から真美の機嫌が悪かった。
校門前で生活指導の先生に、
登校中のほかの生徒の目の前で注意を受けたために。

こうなるともうサイアク。

「ホントだよね!!
 いまどき膝を隠すスカート丈なんておかしいよ!!」

「あんたもそう思うよね!?
 並列化しているから私と同じ気持ちよね!?」

並列化していると嫌な気持ちも、
その人の思考も強制的に流れ込んできてしまう。

真美の気持ちがすべて、私の気持ちを上塗りしていく。

「そう……だね。やっぱりおかしいよ」

「でっしょーー? やっぱり私たち仲良しだね♪」

この日、私は自分の気持ちが
どんどん誰かの気持ちによって捻じ曲げられたことに気付いた。

家での食事でも、

「あら? あんた唐揚げ好きじゃなかったの?
 誕生日だから作ったのに、おいしくなかった?」

「……ううん、おいしかったよ。
 でも……なんでか好物じゃなくなったの」

並列化したことで私の食事の好みも、
仲良し3人組の共通のものしかなくなった。

髪型も派手になり始め、
私服もどんどん露出が多くなり始めた。

「あんた、最近まるで友達の真美ちゃんみたいよ?
 いったいどうしたの?」

私も自分の変化には気付いていても、
頭では「これが正しい」のを信じて疑えない。
並列化で私個人が失われていることを感じ始めた。


「……私、並列化をやめたい」


勇気を出して、親友に告白すると
並列化していた心に一瞬で嫌な気持ちがなだれ込んできた。

「……どういうこと?」
「並列化を辞めるって友達じゃないってことよね?」

「ちがうよ! 並列化してから
 私、自分が好きだったものも好きじゃなくなって……」

「いいじゃない。だって私たちは仲良しなんだし、
 個人の楽しみなんか持っていても
 そのことでお互いに話して楽しむことなんてできないでしょ」

「それでも! 私は前から好きだったものを
 みんなに合わせて好きでもなくなるなんて……嫌なの!!」

私の必死な気持ちが並列化した心で送られる。
はね返ってきたのは露骨な嫌悪感だった。

「あっそ、じゃあもう友達解消だね。
 ずっと友達だと思っていたのに、サイアク」

「真美、ちょっと待って!」

真美は行ってしまった。
並列化前までのように気軽に話して、
自分の知らないことを話したりしたかっただけなのに……。


誰からも連絡が来なくなって数日。

私はけんか別れした後ろめたさで
まだ並列化を解除していなかった。

「はぁ……言い出すんじゃなかったなぁ……」

今のこの落ち込んだ気持ちが届けば、
きっと真美たちがやってきて仲直りしてくれる。
そんな淡い希望をいだいて。

「――っ!?」

そのとき、急激に胸が苦しくなった。
どんどん意識が遠くなるような……。

並列しっぱなしの心がぎりぎりと締め付けられて、
ひたすら死を実感する気持ちが流れてくる。

私じゃない。
これは、私以外の誰かの気持ちが流れてきてる。

「もしもし!? 真美!?
 今どこにいるの!? 電話に出て!!」

『ただいま電源が切られているか、電波の届かないところに……』

「もう! なんで電話に出ないのよ!」

今度は別の友達に連絡する。

『真美? 今日は買い物に行くって言っていたけど……』

慌てて窓の外を見ると、
ショッピングモールの方角から黒い煙が上がっていた。

 ・
 ・
 ・

「通報、ありがとうござました。
 あなたの通報と携帯位置の特定のおかげで
 すぐに消火活動に移ることができました」

「いえ、私は親友を救いたかっただけなので」

火事を見つけてすぐに通報し、
真美のスマホから位置を特定して誰も犠牲にならなかった。

「ありがとう、あんなにひどいこといったのに
 私を……助けてくれたのね」

「真美、私たちは友達じゃない。
 友達があんな苦しい気持ちになっていて助けないわけないよ」

「……嬉しい! 私たちずっと友達だね!」
「当たり前じゃない!」

すすで真っ黒の真美とハグをした。

並列化の解除はもう辞めよう。
こんなにも幸せな気持ちが、こんなに流れてくるんだもん。

「これからも、ずっとずーっと一緒だよ♪」

「私たちの友情は永遠だもんね♪」




すると、奥から消防活動を終えたイケメンがやってきた。

「ご協力、ありがとうございました。
 ぜひ何かお礼がしたいんですが、いかがでしょう」

その顔を見て、私と真美の「この男は私のもの」という気持ちが
統合されて何倍にも膨れ上がった。

「ちょっと! 今、私に話しかけたのよ!!
 なにちょっと嬉しくなってるのよ!!」

「違うわよ!! ぜったいに私よ!!」

私たちはすぐに並列化を解除した。
友情? なにそれ。