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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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魂たちの肉体ピンチ試験

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ドンッ!!!!

どこかで何かが壊れるような音が聞こえた。

「なんだ、今の音?」

「近くでトラックが事故ったらしい。
 でも、今はそれどころじゃないだろ?
 体を手に入れる最終試験なんだから」

「そ、そうだな」

教室にいる魂たちは、
肉体を得るための最終試験の勉強に取り組んでいた。

肉体を持たない彼らにとって体を得ることは、
自分の行動範囲を一気に広げてくれる魔法のアイテム。

どんな最終試験が行われるのかわからないが、
ここまで試験を突破した以上、必ずや合格を勝ち取ってみせる。

すると、試験監督の魂が入ってきた。

「では最終試験をはじめます。
 最終試験の内容は――」

魂たちはごくりと生唾を飲み込んだ。

「最終試験は3つのピンチ試験、です」

「ピンチ?」

「肉体を得ることで君たちは
 これまでの魂のときとはまるで異なるピンチがあります。
 そこで上手く立ち回れる魂のみが受肉できます」

「はんっ、そんなの簡単じゃないか。
 俺たち魂はこれまでの試験で肉体のことは勉強しつくしている。
 今更たかがピンチが来たところで怖いことなどない」

「では1つ目のピンチ試験。
 『鼻水が止まらないときに限ってティッシュが底を尽きる』
 を体験しましょう」

試験監督がシミュレーションをはじめると、
甘く見ていた魂たちは想像以上のピンチに慌てふためく。

「こっ、これはまずい! 大ピンチだ!」
「人にティッシュ貸してもらうこともできない!」
「服で拭うなんて絶対嫌だ!! うあああピンチだ!」

あまりのピンチ度合いに脱落者が続出。


「だらしないですね、では残った人だけ
 第2のピンチ試験です」

半分以下にまで減った魂たちは覚悟を決める。

「次の試験は、
 『全身の服装がまるきり友達とカブっての合コン』
 です」

魂たちは先ほど以上の悲鳴を上げた。

「どうすればいいんだ! 気まずい!」
「だめだ! 苦笑いしかできない!」
「気を使われて誰も指摘してこないのが逆に辛い!!」

また魂たちはふるいにかけられて、
このピンチを乗り越えた魂だけが教室に残った。

「いいですか肉体を得るということは
 魂では感じなかった楽しみがある反面、
 こういうピンチがひっきりなしに訪れるんですからね」

覚悟を試すような試験監督の言葉に、
魂たちは「それでも」と意思を強く持つ。

それだけに肉体を得るということは、
魂たちにとっての念願でもあった。

「それでは、第3のピンチ試験です。
 『我慢の限界が来ている状態でのトイレ行列』
  +
 『たまたま昔の友達が話しかけてくる』
 です」

「ぎゃああ! こんなピンチ……怖すぎる!」
「早く並ばないと! 早く並ばないといけないのにっ!」
「友達との会話が弾んで抜けられる雰囲気じゃないぃぃ!」

これまでピンチを乗り越えてきた参加者だったが、
この合わせ技ピンチを耐えきったものはごく少数。

「ピンチは何も1つずつ襲いかかってくるわけじゃありません。
 まとめて襲ってくることもざらにあるのです」

試験管はそう締めくくってから、拍手をはじめた。


「……ですが、よくぞここまで耐えましたね。
 まだまだピンチはあるでしょうが、
 君たちならきっと乗り越えられるでしょう」

「ついに肉体が得られるんですね!!」

「はい、もうトラックで君たちの肉体が運ばれてくるはずです」


けれど、いくら待っても肉体は来ない。
試験管が様子を見に行くと、青ざめた顔で戻ってきた。


「じじじ、実は第4のピンチ試験がありました。
 『届くはずの肉体が途中の事故で破損してしまい、
  合格者に肉体を渡すことができない』というピンチです」


第4のピンチ試験では、試験監督がまっさきに脱落した。
魂たちの袋叩きにあったので。