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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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縄文でならヒーローの陶芸家

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「このお椀? ……まあ無難だね。
 この程度の代物なら誰にでも作れるよ」

「な、なんだって!?」

陶芸家の男は今日もまた安い値をつけられた。
一念発起してはじめた陶芸だったが、
これを仕事としていくには自分の才能の限界を感じていた。

「小学生の時の図工の成績は良かったんだけどなぁ……」

ぶつぶつと安い値をつけた鑑定士の悪口を言いながら、
男は今日も静かにろくろを回す。

でも、できるものは「ありきたり」で「ふつう」なものばかり。

「ちくしょう! どうして俺の作品はダメなんだ!
 いったい何が足りないっていうんだ!!」

ろくろを蹴とばすと、ぶつかった棚が倒れてくる。
すると、棚の奥から次元の切れ目が現れた。

男は悩む前に好奇心に負けて手を突っ込むと、
たちまち別の世界へとワープした。

「痛てて……ここはどこだ?」

周りを見渡してみると、
誰もかれも畑などで農作をしながら土器を作っていた。

見覚えのある模様に、男はこの時代にぴんときた。

「ここは縄文時代……!?」



それからしばらくして、
男が縄文世界の人気者になるのにそう時間はかからなかった。

「す、すごい! 見たことのない形だ!」
「こんな模様が思いつくなんて天才だ!」
「キャーー! 私にも作ってぇ~~!」

「あははは、かまわんよ」

男は簡単なお椀を作ると、観衆は熱狂した。

なにせ土器や銅剣、鏡くらいしか作れない文化に
男の作る奇妙奇天烈な作品はまさに魔術に等しかった。

「ああ……元の世界ではあんなにボロクソだった
 俺の作品がこんなにも評価されるなんて……カイ、カン♪」

「トウゲーカ様、トウゲーカ様にお目通りしたいという方が!」

使者が連れてきたのは、表現できないほどの美人。

「わらわは邪馬台国の卑弥呼じゃ。
 そなたをわらわの専属漆器職人にしたいのじゃ」

「喜んで!!」

陶芸家の男は卑弥呼のルックスに負けてすぐ結論を出した。
それからは毎日夢のような日々だった。

毎日おいしいものはどんどん貢いでくるし、
ちょっと作品を作るだけでお祭り騒ぎで喜んでくれる。


けれど、幸せなはずなのに、男はだんだんと不安感を募らせていった。

「卑弥呼……俺はこのままここにいるとダメになる気がする」

「なんでじゃ? 主の作品はみなが楽しみにしておる。
 なにが足りないのじゃ? 足りないものはわらわの
 すぴりちゅあるぱわーでなんとかするぞ?」

「違うんだ。俺はもっと一流の陶芸家になりたいんだ。
 ここでは売れっ子になれても、一流にはなれない」

ここには誰も競う相手がいない。
ここでは自分を評価する人間もいない。

それは人気者になれる反面、男から成長を失わせる環境だった。

「そうか……ならば仕方ない。
 主が作った作品はわらわたちで大切に保管しよう」

「ありがとう卑弥呼。君のことは16,500年経っても忘れない」

陶芸家は最後に簡単なお椀を作って卑弥呼に渡した。
そして、次元の裂け目から現実世界へと帰っていった。



現実世界に戻るなり、電話がひっきりなしにかかってきた。

『あなたの作品をぜひ買い取らせてください!』

電話はどれも同じ内容だった。

「ああ、ついに……ついに俺の実力が認められたんだ!
 長かった……でも、見てくれる人は見てくれるんだ」

男は嬉しくなって、
自分の作品を買った人に会いに行った。

「君が僕の作品を評価してくれた人だね、ありがとう。
 このお椀のどこが一番いいと思ったんだい?」

この塗りだろうか。
この完璧なフォルムだろうか。
いや、計算しつくされた持ち手だろうか。

買い取った人たちは全員同じ答えを返した。


「縄文時代の遺跡で見つかったものと同じなんで、
 これは歴史的価値があるからと思ったんです。
 じゃなきゃこんな駄椀なんて買いませんよ、ははは」