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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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俺たち私たちはもう死んでいる

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その旅館に入るやいなや全員が即死した。

幽霊となった3人はあまりの急展開に、
お互いに顔を見合わせていた。

「あれ? なんで死んでいるの?
 私、この『未来温泉旅館』に来ただけなのに」

「どういうことだよォ!
 俺が死んでいるなんて納得できねェ!」

「僕が分析するに『未来温泉旅館』で
 殺人事件が起きたと推察されます、ええ」

「「殺人事件!?」」

未来温泉旅館。

訪れた人間は今日をすっ飛ばして未来の自分になる。
髪も伸びるし、成長できる有名なスポット。

けれど、人がまとめて死ぬなんてことは
まるで聞いたこともなかった。

「殺人事件ってどうして言えんだよォ」

「簡単なことです。
 僕らの健康状態はいたって良好。それに……」

「そうだったわ! ここは温泉旅館だった!」

とくれば、殺人事件。
安易すぎる結論だがこうして3人が殺されたことが
そんな雑すぎる結論に説得力を持たせている。
持たせていることにする。

「チッ。だったらどうすりゃいいんだよォ。
 死んでしまった以上、旅館から一歩出て元の自分に戻れば
 復活ってこともなさそうだしよォ」

「そうねぇ……一度死んでしまっているものねぇ」

「簡単なことです。僕らで犯行を阻止するんです。
 犯人が犯行できないようにすれば、僕らの未来は変わります」

「そうね、私たちは未来だけどこの旅館じたいは現代だもの」

「っしゃあ! それじゃあ全員の殺され方を洗い出すぞォ!
 凶器を全部この旅館から回収すれば大丈夫だァ!」

全員は未来の自分になったのをいいことに、
身に覚えがないものの記憶にある過去を思い出し始めた。

「私は……何か体に突き立てられたわ」

「俺はぶっ刺されたなァ。ふざけやがってェ」

「僕はいきなり斬りつけられました」

3人全員が犯人の姿を見てこそいないものの、
凶器の特定はあっという間に終わった。

「包丁よ! みんな包丁で殺されているわ!」

「っし! ンじゃあこの旅館の包丁を全部回収だァ!!」

男は旅館の女将を呼びつけて、包丁を回収させた。
ほかの従業員の手の届かない場所に厳重に保管させる。

「これでもう殺されることはないと推察されます。
 殺人計画のかなめである凶器を失ってしまえば、
 犯行は難航し、仮に強引に進めたとしても死亡率は下がります」

「これで私たち助かるのね!」






が、ぜんぜん復活しなかった。
彼らの体はまだ半透明のままだった。

「どういうことだコラァ!! 死んだままじゃねぇかァ!!」

「ぼ、僕に怒らないでくださいよ!」

凶器を回収したはずなのに殺されたまま。
さらには殺され方も変わっていないというオマケ付き。

凶器の回収が犯人にとって、なんの障害にもならなかった。

「……もういい!! もう限界よ!」

女が耐え兼ねたように叫んだ。

「私、わかったの。犯人は私たちの中にいるってこと。
 誰かが犯人なら凶器の隠し場所もわかるし……。
 それに、誰かがウソの死に方を話しているのよ……!」

2人の男もはっとした。
犯人は犯行後に自殺したのだろう。

だが、過去を書き換えて殺人失敗させるわけにはいかない。

だからこそ、誰かがウソの証言をしたのかもしれない。

疑心暗鬼に耐えきれなくなった女がわっと泣きだした。

「ごめんなさい! ごめんなさい!
 きっと3年前の事件が原因なのよね! ごめんなさい!」

「3年前ェ?」

「3年前、私……顔は見ていないんだけど、
 詐欺をしたの……きっとその時の被害者が犯人よ。
 ごめんなさい、本当にごめんなさい!」

女の独白に触発されて、やせ形の男も続いた。

「僕も……実は3年前に悪いことをしました。
 僕が働いていた警察署に届いていた事件をもみ消したんです。
 ひき逃げと……詐欺がいっぺんにきて忙しくて……」

男は地面に頭をこすり合わせながら、2人に謝った。

「すみません、本当にすみませんでした!
 殺されたから謝っているんじゃありません!
 本当に申し訳なくて! すみません!」

もう一人の男も口を開いた。

「そのひき逃げ……実は犯人が俺なんだ」

「どういうこと?」

「酒を飲んだ帰りに……車でババアをひいちまったんだ。
 近くに女が立っていたからバレると思ったんだけどよ。
 捕まらなくてラッキーだと思っちまったんだ」

男の目からはぼろぼろと涙がこぼれる。

「そのババアが詐欺にあった帰りで、
 呆然としていて道路に来ていたってのと……。
 その後、病院で死んだってことは後で聞いたんだけどよォ……。

 本当に、本当に、本当に悪かった!!」

全員が自分たちの腹の中にかかえていた悪事を告白した。

「……僕は犯人ではないですが、
 こんなに後悔しているみなさんを殺すことはありません」

「私だってそうよ! 犯行動機なんてないわ!」

「俺だって、3年前が原因だとしても
 その復讐なんかするわけねぇだろォ!!」

全員の懺悔会は犯人から犯行動機を奪った。
それでも彼らは復活しない。

この懺悔すら犯人の耳には届いていなかった。

「どういうことだァ!!
 てめぇら、本当は全然許してねぇんじゃねぇかァ!」

「違うわ! 本当よ!」
「僕だって殺す理由なんてありません!」

男はこっそり隠していた包丁を取り出した。
女将に全部回収させる前に、1本だけ護身用に持っていたものだった。

「もうどうでもいい!
 てめぇら全員ぶっ殺せば、俺だけは助かるだろォ!!」

ひき逃げの時に、横に立っていたのは女。
おそらく家族。
その復讐が犯行動機だとすれば……。

「犯人は女に決まってんだよォ!!」

「やめて! 何するのよ!」

「まさか……これが殺人事件の原因……!?」

「ぶっ殺してやるッ!!」

男が包丁を振り上げて襲い掛かる。



「――フッ!!」

やせ形の男が、包丁をいなして男を抑え込んだ。
誰一人として予想していない逆転劇だった。

「黙っていて正解でした。
 実は僕は合気道習っていたんですよ。
 不意打ちでなければ、抑えるなんて簡単です」

「くそっ!! 離しやがれェ!!」

「落ち着いてください!
 これで僕らは生き残ることが決まったんですよ!」

「……あァ?」

「あなたが僕らを殺せなかったんですから
 殺人事件はもうなくなったんです!」

3人の中に包丁を持っている人はいない。
凶器がない以上、もう殺人事件は起きない。

「これで私たち助かるのね……。
 すべてを話せて、温泉より疲れが取れたわ」

「さあ、そろそろ僕らの体が
 幽霊から人間に戻ることができます」

「よく考えたら幽霊の俺たちを殺すことってできねぇよなァ」

男の一言に全員が大いに笑った。





「……え? それじゃ、誰が犯人なの?」

女の一言に、3人は顔を見合わせた。

※ ※ ※

「女将さん、包丁を集めてどうするんです?」

「ええ、お客様が隠せとおっしゃられたので」

女将は誰も見えないところに包丁を隠し、
その中から犯行に最も適した1本を袖に隠した。


「母を詐欺で騙した女……、もみ消した男……。