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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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トロイの木馬が検出されました

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『ウイルスバスカー2016は、パソコンだけではありません。
 どんなものにもインストールできます!
 生物にも非生物にも、どんなものにもです!』

新しいウイルスソフトが記者会見で発表された。
どんなものにでもインストールできると聞いて、
面白半分で購入してみた。

「人間に入れたら病気とかも防いでくれたりして」

なんてことを思いながらソフトを起動した。

『ウイルスバスカーのインストールが完了しました』

「ようし! これでばっちりだ!」

安心して深酒をして、不摂生を繰り返した。
すると、ものの見事に体調を崩した。

「えーーん! 病気を防いでくれるんじゃないのかよぉ!
 何としても合コンにまでは治さなくちゃ!」

ウイルスソフトがまるであてにならないので、
必死に体の調子を整えて合コンに向かった。

合コンにはすっかり体調も回復し、
俺の軽妙なしゃべりがうまいこと回ったことで
女の子を1人ゲットすることができた。

ふふふ、あとはホテルに誘い込むだけだ。

「ちょっと歩こうか。こっちが近道なんだ」

「うん」

女の子と自然な流れで手をつないだ瞬間。
どこからともなく声が聞こえた。


『トロイの木馬を検出。
 この女性はあなたの財産を食いつぶす危険があります』


思わず手を放した。

「どうしたの?」

女は猫撫で声と上目遣いでこちらを見る。
けれど俺は体が勝手に動いて、その日はそのまま帰った。

翌日、その女が有名な「貢がせ女」だと知り冷汗が流れた。

「なんだよーーお前なら確実に破産すると思ったのに」

「俺になんの恨みがあるんだよ!
 そんな女合コンに連れてくるんじゃねぇよ!」

「まあいいじゃねぇか。友達の可愛げってもんだろ」

友人はにっと歯を見せて笑った。
俺の肩にぽんと手を置いたとき、


『トロイの木馬を検出。
 この男性はあなたの交友関係を破壊する危険があります』


俺の体は勝手にその手を払って、口が動いた。

「……悪いけど。お前とは友達やめるわ」

急な俺の言葉に友達は目を丸くするばかり。

「ちがっ! 違うんだこれはウイルスソフ……」

誤解を解こうとすると勝手に口が動かなくなる。
眼球に直接表示されたのはウイルスレポート。


ウイルス:1件
この男性はあなたにひそかなライバル意識を感じています。
友達のふりをして近づいて、あなたの社会的評価を落とす脅威があります。


そういわれてみると、心当たりもある。
まさかこいつ……。

「お前、まさか……ウイルスか!」

「は? 何言っているんだよ。
 俺たちは小学校の時からの親友だろ」

その笑顔にはもう裏があるようにしか見えなかった。



友達と絶交してから、ウイルスソフトは大活躍。
俺の人生に障害となりそうな人間をはじいてくれる。

「いやぁ、いれてよかったよかった」

人のウソや裏の顔にびくびくしていた日々がバカみたいだ。
ソフトを入れてからの俺は以前にもまして
積極的に人間関係を広めるように過ごしていた。

大丈夫、危ないものはソフトが排除してくれるから。


「……君、僕の里美ちゃんを狙っているんだろ」

「え? 里美? 誰それ」

安心していた俺に修羅場が訪れたのは、
ある日の合コンの帰り。

「とぼけるな! 今日の合コンの間ずっと
 里美ちゃんの方を見ていたじゃないか!
 里美ちゃんは僕の女の子なんだぞ!」

「それってお前が決めることなの……?」

なんかめんどくさそうな気がすると、
やっぱりというか案の定ウイルスソフトが起動した。


『トロイの木馬を検出。
 同じ合コン参加者と称して近づいては
 勝手な勘違いであなたへの物理的な脅威となります』

やっぱりな。
でもこんなひょろ男が物理的な脅威って……。
ソフトが体を自然に動かして男のもとを去ろうとしたとき

「待ちな」

背後に立っていた屈強な男2名に羽交い絞めにされた。
脅威はこっちかよ!!

「僕の里美ちゃんを狙うハエどもは排除してやる」

「ご、誤解だって!」

「ウソをつけ! 僕のウイルスソフトがそう検出してるんだ!!」

「そんな馬鹿な!」

勘違い男もウイルスバスカーを入れていた。
それも設定で自分の好みの女に気がある人間を
ウイルスとして検出するようにして。

そんなつもり全然ないのに!!

俺の必死の弁解もむなしく、ボコボコに殴られている時。

「おい! 何してる!!」

聞き覚えのある声だった。


ウイルス:1件
この男性はあなたにひそかなライバル意識を感じています。
友達のふりをして近づいて、あなたの社会的評価を落とす脅威があります。

このレポートは……。

「ちっ、まずい!
 あの男は僕たちを通報する脅威になる!」

勘違い男とその取り巻きは逃げていった。
俺のもとに駆け寄ったのは親友だった。

「大丈夫か? どうしたんだよ、こんなにぼろぼろになって」

「に、人間の怖さを痛感していたんだ……」

「あはは、なんだそれ。ほら、手を貸すよ」

俺の頭には鳴りやまないウイルス警告音が響く。
けれど、体は親友の手を取っていた。

俺の行動にソフトはついに壊れて警告音が止まった。

「帰るか」
「おう」

親友の肩を借りて家路についた。
その途中で

『ウイルスバスカーのインストールが完了しました』

事務的な声がどこからか聞こえた。

「なあ、今何か聞こえなかった?」

「ああ、ウイルスなんとかがって聞こえたな」

友達にも俺にもソフトはインストールされていない。
といっても、俺のはもう使えないので再インストールは無理。

「……どうして俺のこと、助けてくれたんだ?
 本当は俺のこと社会的に死ねばいいと思っているんだろ……?」


「は? 何言ってるんだ?」

「え」

「誰に何を吹き込まれたか知らないけどよ、親友だからな。
 助けないわけにいかないだろ」

親友はにっとまた笑った。
その後ろで街頭モニターが緊急ニュースを報道していた。


『先日発表されたウイルスバスカー2016には
 すべての人間を悪いものと結論づける欠陥が見られました。
 まだインストールしていない人はすぐに廃棄してください』


やっぱりな、という感じだった。
この親友の顔にウソやだましがあると思えないもの。

もうウイルスソフトなんかに操作されるものか。

「さっき、インストールって聞こえたのは誰だったんだろうな」

「……さあ」


そのとき、世界中に事務的な声が聞こえた。



『トロイの木馬を検出。
 人間という生物はあなたの環境を破壊する脅威となります
 すぐに排除することを強くお勧めします』

翌日、人が済めなくなるほど地球環境は変化した。