イライラマイレージ9999999pt
「せっかく最高まで貯めたんだろ?
特典ももらえたんだろ? 辞めるなんてもったいない!」
「いくら貯められる環境だとしても、
やっぱり耐えて切れなかったから……」
※ ※ ※
それからかなり時間が巻き戻り、
俺が「イライラマイレージ」会員になったころにさかのぼる。
「イライラマイレージねぇ」
友達の薦めで入ったものの、
これにどんな価値があるのかわからない。
財布も圧迫するのでこっそり捨てようか。
ちりんちりん!
「うわっ!」
後ろから猛スピードで自転車が通って行った。
"邪魔だ道を開けろ"とでも言いたげにベルを鳴らして。
「あ、危ないだろ!
くそっ、ふざけやがって……あーイライラする」
すると、マイレージが1pt加算された。
「なるほど、イライラするとポイントが増えるのか。
これならイライラしてもなんだか嬉しくなるな」
しかも増えたポイントによって、特典があるらしい。
1ptは……。
「ポケットティッシュ1つかぁ……」
よほど花粉症で切羽詰まっていないと交換しないだろう。
他の特典を見てみると。
高級スープ 100pt
高級布団 1000pt
素敵な恋人 2000pt
・
・
・
???? 9999999pt
「なんだこれ」
途中の素敵な恋人にも気になったが、
マイレージを最高まで貯めると何がもらえるんだろう。
他のとポイント差が開いているので期待できそうだ。
「よーーし! たくさんためるぞ!」
その日から、俺の日常は変わった。
わざとトイレの紙を補充しないまま放置し、
忘れたころにトイレに入って
「なんで紙ないんだよ! ふざけんな!」
イライラマイレージ +10pt
ポテトチップスの袋はわざと頑丈なのを選び、
あえてハサミを使わずに手で開こうとして……
「くそっ! 爆発しやがった! 死ねっ!」
ポテトチップスをぶちまけてイライラを貯める。
イライラマイレージ +10pt
マイレージを貯めるにつれて最後の特典への期待も高まる。
一番怖いのは最後の特典を手に入れたときに
「俺は別に欲しくないな」となるのが怖い。
そんな肩透かしの失敗だけは避けたいので、
イライラマイレージを貯めつつ最終特典の調査をすることに。
「最後の特典がなにか知りたい?
あんなの普通の人間に貯められるわけないだろ」
「それでもいいから、何か知っていないか?
どんなものがもらえるとか、何が得られるとか」
「そうだなぁ……」
友達は記憶をたどるように考え込んだ。
「これは噂だけど、
最後の特典を貯めた人は
マイレージが一気に貯められるようになるらしい」
「本当か!」
「いや、あくまで噂だけどな。
どういう仕組みなのかはわからないし」
良いことを聞いた。
最後の特典を手に入れたものがマイレージを貯めやすくなる。
となれば、いわばこれまでのマイレージ特典を全部手に入れられる。
誰にでも嬉しい最高の特典じゃないか!
「うおおお! 絶対貯めきってみせる!!」
ますますやる気を再燃させた俺は、
ゆっくり歩く老人の姿にすらイライラしてマイレージを貯めた。
そしてついに……。
9999999pt
「貯まった……ついに……たまったぞ!」
念願のポイントを集めてマイレージ交換センターへ駆け込む。
「いらっしゃいませ。ポイントの交換ですか?」
「はい! 最後の一番いい特典をください!」
何がもらえる。
何が出される。
うきうきしながら待っていると、
出てきたのは金色でゴージャスな会員カード。
「これは……?」
「イライラマイレージゴールド会員です。
あなたはここまで一生懸命イライラを貯めてきたので
ゴールド会員だけの世界に行くことができます」
「本当ですか!」
自分が特別な人間扱いされたことを嬉しく感じながら、
案内人に連れられて金色の扉を開ける。
「ようこそ、ゴールド会員の世界へ」
扉の先には……。
「なんで8時なんだよ! むかつく!」
「あーーイライラする! どうしてCMがあるんだ!」
「チッ、どいつもこいつもイライラさせやがって!」
扉の先にはゴールド会員だけの世界が待っていた。
みな、自分のマイレージを貯めるために
どんな小さなことにでもイライラするよう体が出来上がっている。
「ここにいると、イライラマイレージが一気に貯まります。
きっと現実世界での数十倍の速度になるでしょう」
「ええ……そうですね……」
勝手にイライラしている人によって、
俺のイライラマイレージは自然に貯まった。
+10pt
+10pt
+10pt ……
イライラをまき散らすこの場所でマイレージが増えていく。
増えていくが……。
※ ※ ※
「……というわけで、もう辞めたんだ」
「せっかく最高まで貯めたんだろ?
特典ももらえたんだろ? 辞めるなんてもったいない!」
「いくら貯められる環境だとしても、
やっぱり耐えて切れなかったから……」
作品名:イライラマイレージ9999999pt 作家名:かなりえずき