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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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人生オークションにかけてみた

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高校の同窓会に行くと、もう誰が誰かわからなかった。

「おーーい、こっちこっち!」

手を振る男がいたので行ってみる。
とはいえ、こいつが誰かわからない。

「懐かしいなぁ、もう10年ぶりかぁ」

「お、おお……」

思い出せ、思い出せ。
えっと……たしか高校の時の友達の名前は……。

「や、山田は? もう来てるかな?」

「山田? そんな奴いたっけ」

こいつも忘れているパターンか!
ますます特定するのが難しくなってきた。

「山田のことなんていいからさ、お前のこと教えろよ。
 お前は今なんの仕事してんの?」

「仕事? えと、ああ。金属を加工する仕事だよ」

すると、男は勝利を確信したように顔をゆがませた。

「へぇ、高校時代はクラスの人気者で
 なにをやっても1番だったのになぁ、わからないもんだなぁ」

結局、同窓会は男に「お前も落ちぶれたな」と
言われ続けて終わった。

家に帰るといら立ち紛れに酒に溺れていた。

「あなた、飲みすぎよ。
 うちだってそんなにお金あるわけじゃ……」

「稼ぎの低い亭主で悪かったなぁ! ちくしょーー!」

酔いも回りに回って、どこかに愚痴でも書こうかと
パソコンを立ち上げたときにサイトを見つけた。


『人生オークション』


サイトにはいろいろな人生が、
カプセルに包まれてオークションに出品されていた。

金持ちの人生や、専門家の人生は高い。
一番安いのはごく普通のサラリーマンで普通の日常。

「俺の人生ってどのくらいの価値があるんだろうな」

試しに『出品する』をクリックしてみると、
またたくまに値上がりしていく。

「おおおお! すごい! こんなに!」

最初は価値がわかり次第出品取り下げるつもりだったが、
こんなにも値上がりしているのであれば話は別だ。

工場で金属を加工する、という専門技術の経験が
人生オークションで高く値が付いたのかもしれない。

値上がりがついに止まったころ、
『落札確定』のボタンを酔いもあって押してしまった。

その瞬間に、ネット銀行の貯金にお金が振り込まれた。

「俺みたいなやつの人生でも高く売れれば最高じゃないか!」

ってあれ?
俺の人生……俺の人生ってどんなんだったっけ?

仕事は?
友達は?
過去は?

持っていたはずの思い出がごっそり抜けていた。

「まさか……出品された人生は……戻ってこないのか!?」

慌てて落札者を探すことに。
これまで俺が培ってきた人生を失うなんて聞いていない!

俺は必死にありとあらゆる手を尽くして落札者を探した。




あれから数日間、必死に探したが見つからなかった。
せめて落札者さえ特定できれば交渉もできたのに……。

こう日も経ってしまえば、
落札者が俺の人生を転売したり使用していたりして
もう戻すことができない状態になっているかもしれない。

「あなた、どうしたの?
 すごく落ち込んでいるみたいだけど……」

「なあ、俺はどんな人だったんだろう。
 今じゃ何も思い出せない。
 大切な思い出も何ももう思い出せないんだ……」

「大丈夫よ」

「大丈夫!? 何が大丈夫なんだよ!
 こっちは自分の人生がごっそり抜けたんだぞ!」

「こっちへ来て」

妻が引き出しを開けると、
そこには大金と人生カプセルが入っていた。

「この人生カプセルは……まさか!」

「そうよ。あなたの人生を一番評価しているのは私だもの」

「それじゃお前が……!
 ありがとう! 本当にありがとう!」

こんなにも自分を思ってくれている妻との思い出を
安易に捨ててしまった自分を恥じた。

「さあ、あなたカプセルを開けて」

「ああ」

ふと、開ける前に気になった。

「ところで、俺の人生結構な値段だったのによく落札できたね」

「ええ、私だってもしもの時のためにお金を貯めているのよ」

「それじゃこの大金は?」

「それは……」

妻は俺の持つカプセルに手をかけた。



「32回、あなたの人生を出品して儲けたお金よ」

妻がカプセルを開けると、
これまでの人生の記憶が上書きされた。


「ああ、俺は……えっと……。
 確か普通のサラリーマンで普通の人生を……」