玄関開けたら1秒で絶命!
宇宙人から攻撃されたわけでも
地球環境が急激に変わったわけでもなく全員死んだ。
その間、1秒。
その後、全人類はあっという間に復活した。
「あれ?」
ほんのまばたき感覚だった。
一瞬目をつむったかと思ったら、すぐに元通り。
その日に全人類が死んでいたことは後になって知ったが、
当時の俺は1秒死んで生き返ったことなんて知らなかった。
変化に気付き始めたのは、数日後。
俺はすぐに病院に駆け込んだ。
「最近なんども1秒くらい目の前が真っ暗になるんです。
まばたきはしてないみたいなんですが」
けれど医者はため息をついた。
医者ですらこの原因をつかめていないらしい。
「24時間調べてみましたが、
あなたが自覚している"ブラックアウト"の時には、
どうやら完全に死亡して……」
「先生?」
「……あ、ああ。どうやら1秒死んでいたようだ」
お前もなっとるんかぃ!!
医者だけでなく、全人類が1秒ごとに死亡していた。
最初は1日にあるかないかだった1秒絶命が、
頻度を増して1秒死んで、1秒生きて、1秒死んで……と
1日で動ける時間が12時間しかなくなったころ。
「はぁ、毎日こう何度も死んでいたら
日常の仕事も進めやしな
一瞬、真っ暗な風景に花びらが1枚見えた。
「……はっ!
ああ、いけない。また死んでいたのか。
でも、今の花びらはいったい……」
俺が死んでいる時に見えていたのはいつも真っ暗。
その見飽きた風景に初めて変化が訪れた。
1秒後、俺はふたたび死んだ。
真っ暗な世界が広がると、思い切って体を振り向かせた。
「わあ……! こんなところが!」
振り返ると一面の花畑が広がっている。
飛んできた花びらはここから舞い散ったものだったんだ。
1秒後、ふたたび俺は蘇生する。
現実に引き戻されると、わずかな落胆があった。
「あんな風に自分が死んだときの世界があったなんて。
もしかして、これは死後の世界を体験できるチャn
1秒後、死亡。
ふたたび目の前に広がるのは花畑。
と思いきや、今度は大好きな漫画が山積みされている。
「うおおお! なんだこれ!! すげぇ!」
漫画に手を伸ばすと、
ちょうどいいタイミングでスナック菓子とジュースが現れる。
「死後の世界はなんて都合がいい世界なん
1秒後、蘇生。
花畑から一転。
目の前には4畳半の畳部屋が見える。
「くそっ、もう1秒待っていればまた死後の世界に行けるはず!」
1秒後、再び死亡。
・
・
・
それからしばらくして、
1秒絶命の秘密に気付いたのは俺だけじゃなかった。
誰もが自分ひとりだけの最高の世界を満喫していた。
「いやぁ、死後の世界ってのはいいねぇ!」
現実世界で貯めたストレスは死後の世界で発散する。
そんな二重生活を楽しんでいた。
なにせ死後の世界は自分が望めば何でも手に入る。
ただ1点、欠点を上げるとすれば……。
「俺以外誰もいないんだよなぁ」
今まで死後の世界は天国や地獄なんかがあって、
少なくとも俺以外にも人がいると思っていた。
でも、実際の死後の世界は完全個室制。
まあ、文句があるわけじゃないんだけど。
「毎度ありがとうございましたーー」
そんな人のつながりをレジ店員を見て感じた帰り。
ふと見上げたビルの屋上に人影が見えた。
嫌な予感はすぐに目に見える結果で返ってきた。
「人だ! 人が飛び降りたぞ!」
「ダメだ……これはもう助からない」
「いったいどうして自殺なんか……」
俺は手に持っていた肉まんをぼとりと落とした。
『現在、人類の自殺者が激増しています。
原因は死後の世界へ行きたいために――』
1秒絶命で死後の世界の充実感を味わいすぎた人類。
「だったら死んでる方が楽しい」と判断したんだろう。
世界各地で当たり前に自殺するようになった。
集団自殺するバスツアーまで旅行会社で組まれるほど。
「……いったいどうなってるんだ」
世界がおかしくなっていることに気付きながらも、
とりあえずおなか減ったので肉まんを買いにコンビニへ。
けれど、コンビニにはいつもの店員がいなかった。
「あの、ここで働いていた店員さんは?」
「自殺して死後の世界へ行ったよ。
困るよね、急に死なれるとシフトも混乱するし……」
「あ、心配するのそこなんですね」
昨日まで話していた人間が翌日にいなくなる。
それは、「昨日もあるものは今日もある」が
前提の現実世界にはどうしても受け入れられないもの。
そんな現実世界のシステムを維持するために、
究極の二択がえらい人から決められた。
「このままでは現実世界が崩壊します!
すべての1秒絶命を治す薬を作りました!
1週間後、飲まない人間はみんな死にます!」
すべの人間は殺人ウイルスに感染させられ、
1週間以内に1秒絶命を治す薬(兼ウイルス治療薬)を飲むか飲まないか。
現実世界で生きていくか。
死後世界で死んでいくか。
俺の心は決まっていた。
「死ぬに決まってるじゃん!」
どうせ1週間後に死ぬのであれば、
さっさと自殺しておこうかとも思ったが自殺は怖いのでできない。
ここはのんびり1週間待って、
ウイルスちゃんが俺を死後の世界へエスコートするのを待とう。
明日に死亡を控えた6日目。
死に備えて部屋を掃除していると、
古いアルバムが押入れの奥から出てきた。
上京の時に持ってきてはみたけど、
1年目で押入れに突っ込んだままだった。
「懐かしいなぁ」
もう名前も思い出せないクラスメート。
最近連絡とっていないかつての親友。
自分を構成し成長させた人たちが映っていた。
それを見るなり、思い出が一気に噴出した。
ぼろぼろと自然に涙がこぼれ考えが180°変わった。
「俺は……俺の大切な思い出には、
いつも俺以外の誰かがいたじゃないか……!
自分だけがいる世界で過ごしてどうするつもりだったんだ」
心の中にしまっている最高の思い出は、
ひとりで漫画を読んでいるなんかじゃない。
友達と笑い合っていたものばかりだ。
死後の世界で、自分だけの娯楽にまみれても思い出になりはしない。
「俺は……俺は死なない!」
俺は迷わず薬を飲んだ。
すでに日付は1週間後に切り替わっていた時だった。
「……あれ? 死んでない!」
薬の効果が出て1秒刻みで死ぬことがなくなった。
ぎりぎりだったけど間に合ったようだ。
最後の最後で一番大切なことに気付けて良かった。
「上手くいかないことばかりで
自分の思い通りにならないことだらけな現実だけど
変化のない死後世界よりは、ずっと楽しいことがあるんだ!」
俺は生きている嬉しさを全身にほとばしらせて、
外へと飛び出した。
まだ見ぬ誰かとの思い出を求めて。
「あれ? 誰もいない?」
俺以外の全人類が死後世界を選んだことは、
この小説を書く20分前くらいに気付いた。
これを読んでいる人がいたら連絡してほしい。
誰とも出会えない現実世界なんて死後世界と同じなんだ。
助けて。
作品名:玄関開けたら1秒で絶命! 作家名:かなりえずき