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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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お天気アパート滞納中

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その日、大家は激怒していた。

「雨さん!
 いったいいつまで感謝を滞納してるんですか!
 払えないんだったらアパートを出て行ってもらいますよ!」

「か、必ず払いますから!」

「先月も同じことを言いましたよ!
 もう今月の感謝が払われないと追い出しますから!
 次の取り立てまでにきっちり用意してくださいね!」

近くで映画撮影があるらしいとのことで、大家は引き上げてくれた。
人がいる場所で感謝の取り立てなんてみっともないんだろう。

大家がいなくなった後でいろいろ感謝の工面を考えたが
どれもこれもまるでこの状況を打開できそうもない。

「はぁ……このまま追い出されるのかな」

落ち込んでいる雨の部屋に、晴れがやってきた。

「やあ、なにか騒がしいと思ったら雨くんかい。
 どうしたんだい? また感謝を払ってないとかだろう」

「そうだけど」

「HAHAHA! 感謝なんてすぐたまるじゃないか。
 僕なんてちょっと街に出ればすぐ感謝されるよ」

「それは君が晴れだからでしょ」

天気が住むアパートでも晴れは一番の感謝持ち。
誰だって晴れれば感謝するに決まっている、
雨が降ってありがたがる人なんていやしない。

せめて砂漠地帯にでも生まれていれば、
雨が感謝されることもあっただろうに。

「とにかく、ほかの天気にも意見を聞こう」

このまま晴れに遠回しの自慢されるよりも、
お天気アパートを追い出されないようしなくてはならない。

雨はお隣の雪の部屋を訪れた。

「雪! 雪! いるんだろ?」

「なんだようるさいなーー……。
 クリスマスまでは起こさないでくれよぉ」

「なぁ雪。お前、ぜんぜん外に出てないけど
 いったいどうやって感謝を集めているんだ?」

雪はめったに外に出ない。
そのわりに、雨のように大家にどやしつけられることもない。
いったいどんな魔法が……。

「感謝? ああ、なるほどね。
 天気は求められるときに、求められるだけ与えれば大丈夫」

「な、なるほど」

「クリスマスにパラパラ雪が降れば感謝は一気に貯まる。
 毎日、感謝を稼ごうとせずに必要な時に振ればいいんだよ」

そこで雨は雪の助言に従って、
町で雨を求められるのを待った。

1週間晴れ続け、2週間続き、3週間……。

「あの、全然雨が降ってほしいと求められないんだけど」

「そんなの雪のおいらに聞かないでよぉー……。
 それじゃクリスマスまでおやすみぃ……」

雪は稼ぎ時のクリスマスまで眠ってしまったので、
今度は逆方向の隣の部屋に訪れた。

「雷! 雷! ちょっといいかな!」

「イエエーーッ! なんだい雨?
 俺の電撃ライブのチケットが欲しいのかい!?」

「違う違う。君はどうやって感謝を貯めているのか聞きたくて」

雷にいたってはもはや災害。
とはいえ、雨のように感謝を滞納することもない。

「愚問だぜブラザー! 俺は子供にゃ大人気よォ!
 感謝を貯めるコツは、やりすぎることだぜ!
 何事もやりすぎればお祭り騒ぎになって感謝されるのよォ!」

「その手があったか!」

そこで雷のアドバイスにしたがって、
局所的な豪雨を起こした。これでお祭り騒ぎになるはず。


『近畿地方は猛烈な大雨により河川が増水!
 市民のみなさんは怒りを天にぶつけています!!』

案の定、大失敗した。
感謝されるどころか、嫌われてしまった。

今になって思えば、雷なんて光るだけで実際は影響ないが
雨は実害が生じてしまうところに違いがあった。

「ああ、もうだめだ……」

雨はついに感謝集めをあきらめた。

「昔はよかったなぁ……畑や田んぼがあったから
 雨はタイミング見て降ることでいつも感謝されていたのに」

今となっては、雨に頼らなくなったばかりか
そもそも雨の最大手感謝取引相手・農家の人がいなくなっている。

都会のビル群で雨を降らせても、感謝なんてされない。
諦めて荷物をまとめ、雨が外に出た時だった。

「これだ!! これなら感謝される!」

※ ※ ※

撮影は順調に進んでいた。

「それじゃ最後の告白シーン。
 よーいスタート!!」

カチンコが鳴らされると、俳優が女優を抱き寄せた。

「君が好きだ! 一生離さない!」
「まこと……///」

すると、完璧なタイミングで雨が降り始めた。
撮影が終わると、また別の映画の撮影スタッフがやってきた。

今度はサスペンス映画のクライマックスシーン。

「お前が黒幕だったのか……!」

「ふふふ、知ったところでお前はどうする!?」

激しい局所的な土砂降りになって、シーンを盛り上げる。
その後も、同じ場所にほかの撮影チームが押し寄せてきた。

その後、天気アパート前は有名な撮影スポットになった。

あまりの人気にテレビ番組がインタビューに訪れた。

「みなさん、どうしてこの場所で撮影するんですか?」

「どんな映画でもクライマックスに雨は欠かせませんから。
 人口雨よりも自然の雨で撮影できることは最高です。
 本当に天気にはどれだけ感謝しても足りません」

雲がわずかに割れて、笑った顔のように見えた。