小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

大漁のアンチ釣り堀

INDEX|1ページ/1ページ|

 
釣り堀に客がひとりやってきた。

すでに先客がいるようで、
クーラーボックスの横に腰をかけて竿を垂らしている。

「アンチ釣れますか?」

「ぼちぼちですね」

先客は感じよく笑った。
ふと空きっぱなしのクーラーボックスを覗くと、
大量のアンチが入っていた。

ようし、負けるものかと男は竿を入れた。

「あなたもアンチを釣りに来たんですか?」

「いえ、違いますけど……まあそうでしょう」

先客は男の質問に煮え切らない答えを返した。
「あなたは?」と先客は質問を返してくる。

「俺もアンチを釣りに来たんですよ。
 アンチがいれば自分の欠点を指摘してくれますからね。
 たくさん意見してもらえれば、かならず力になりますから」

それから、軽い会話をして数時間。
男の竿はぴくりともしなかった。

「うーーん。どうしてだろう。
 全然アンチが釣れないじゃないか」

男は先客に助けを求めた。

「あの、全然釣れないんですがコツありませんか?」

「コツ……そうですね、偉そうにしてみては?」

一旦竿を上げて作品(エサ)を偉そうなものに変更する。
再度釣り堀に投げ込むと、今度は一気に食いついた。

「おおおおお! すごい! すごいぃぃ!」

先客のアドバイスのおかげか、
アンチは見違えるほど大量に釣り上げることができた。

けれど、男の顔はまるで嬉しそうじゃない。

「どうしたんです?
 たくさんアンチが釣れてよかったじゃないですか」

「ええ、それはそうなんですが……。
 活きはいいものの、あまり栄養にならないんですよ。
 どれも質の悪いアンチばかり釣れるので」

「そうですか……」

男は残念そうにエサを普通のものに切り替えてリトライ。
質の悪いアンチが大量に釣れるくらいなら、
普通のものに切り替えて味のともなうアンチを狙うほうが賢い。

男が黙って釣りを続けていると、
先客はふいに立ち上がってクーラーボックスのアンチを
男の垂らしたエサの周りに放った。

「ちょ、ちょっとなにもったいないことを!?
 せっかくあなたが釣り上げたのに!」

「いいんですよ、これで」

先客がまいたアンチに連れられて、
どんどんほかのアンチが吸い寄せられてくる。

「アンチは群れで行動する習性があるんです。
 アンチがたくさんいる場所だと安心して否定しにくるんですよ」

「それで撒き餌を」

男が納得するやいなや、竿が一気にしなる。

「キタキタキターー!!」

 ・
 ・
 ・

しばらくすると、男のクーラーボックスは
釣り堀のアンチを釣りつくしたというほどの数が収まっていた。

「ありがとうございます。
 あなたの親切のおかげでこんなに釣ることができました」

「いえいえ、気にしなくていいんですよ」

「これだけアンチがいれば、俺はきっと良くなります。
 それじゃあこれで。
 あなたはまだ釣っているんですか?」

「はい、私の釣りはここからですから」

「そうですか、頑張ってくださいね」

男は先客と別れて嬉しそうに帰っていった。

残された先客の竿の近くにはアンチが消えたことで、
だんだんとファンが寄り始めた。

「あの客はまったくバカだなぁ
 否定するアンチの意見に合わせても
 結局は否定されるうえに自分の持ち味も失われるのに」

先客が竿を上げると、ファンが釣れた。

「あいつがアンチを釣りまくったおかげで、
 ファンが釣りやすくなったなぁ。
 やっぱり自分を伸ばしてくれるファンの方が価値がある」

先客はほくほく顔で釣りを続けていると、
また別の客が釣り堀にやってきた。

「やあどうも。釣れていますか?」

「いえ全然。ところで、アンチを釣るコツを教えましょう」

「それはありがたい。
 今日はアンチをたくさん釣って帰るぞ!」

先客はまた新しい客にもアンチのコツを丁寧に説明した。