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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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Now 脳死ing....

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この世界には小さなムダが多い。

テレビのCM。
電車の待ち時間。
エレベーターの時間。

普段は気にしないような時間でも、
積もり積もりばそれが人生を占める時間の1割になるはずだ。

「君、聞いているのかね!!」

「え? ああ、はい」

……と、非生産的な説教の最中でも
俺は生産的に思考を続けていることに社長は知らない。

「そもそも君の普段の態度は……!!」

ああ、また無駄な時間が始まった。
あとは社長がすっきりするまでは何も言わない方がいい。

数時間後、俺はやっと無駄な時間から解放された。

内容は……覚えていないが、大事なことではない。
どうせ自分の価値観をダラダラ言っているだけなのだから。

「今日も疲れたぁ……よし、帰ろう」

エレベーターのボタンを押して、会社を出ようとする。
押してから貼り紙に気付いた。

『ただいまエレベーターの点検中。』

しょうがないので階段を使おうとすると、
会社の備品やらが階段をびっしりとふさいでいた。

「おいおい……これ待たなきゃいけないのか……?」

無駄な時間から解放されたと思いきや、
畳みかけるように無駄な時間を送らされるなんて。

早く家に帰って休みたいのに。

 ・
 ・
 ・

2時間後、エレベーター点検作業が終わった。

やっと会社から解放されて家路につく途中、
道の端で一人の男がただ突っ立っていた。

まるで、この人の時間が止まっているみたいに。

「あの、大丈夫ですか?」

俺が声をかけても男はぴくりとも反応しない。
股間蹴り上げてもまるで動かない。なにこれすごい。

1分後、急に男は目を開けた。

「……ふぁ、あれ? あなたは?」

「あ、俺は通りがかっただけです。
 あなたがずっと立ち止まっていたのが気になって」

「ずっと? おかしいなタイマーは1分だったはず……。
 わあ! しまった! 間違って1時間にしていた!」

男は見慣れない装置を取り出した。

「その装置は?」

「ああ、これは"脳死装置"です。
 タイマーで時間をセットすると、一時的に脳死するんですよ」

なにを言っているのかわからないが、
男は「どうぞ試してください」と言うので
タイマーを1分後にセットしてみた。

「この装置の良いと








 にするんです」

目が覚めると、1分経過していた。
眠りとはまた違う解放感を感じる。
頭がさえて、体にかかっていた疲れも緩和されている。

「あなたは1分の間、脳死していました。
 すっきりするでしょう? おすすめですよ」

時間を見ると、たしかに1分。
でも体は何時間も眠った後のように軽い、軽い。

俺は男と別れたその日のうちに、脳死装置を取り寄せた。


翌日、会社に来ると機嫌の悪い社長が怒鳴ってきた。

「君! ちょっと来たまえ!!」

ああ、長くなりそうだな。
2時間は覚悟しておかないと……。

「あ、そうだ」

脳死装置のタイマーを2時間にセットするつもりが、
どうやら最大1時間までしかできないらしい。

とりあえず、1時間にタイマーセット。
すぐに目の前が真っ暗になった。


 なんだ! 君のように若い人間は特に!」


脳死から覚醒しても、社長の説教は続いていた。
タイマーを1時間後にセットして、脳死につく。


 ということだ! わかったかね!」

「はい、わかりました」

ちょうど社長の説教が終わったところで目が醒めた。
席に戻ると、同僚は心配そうに声をかけた。

「おい、よく我慢したな。
 僕だったら途中で社長をぶん殴っていたよ」

いったい何を言われたのか知らないが、
脳死していたので何も聞こえないし感じない。最高だ。

それからは、脳死装置のお世話になりっぱなしだった。


「ハンバーグ定食ですね。
 あちらの席でお待ちください」

5分後にタイマーセット。
脳死から醒めるとテーブルには料理が届いている。


『続きは、CMのあと!!』

1分後にタイマーセット。
脳死から醒めたころに、ちょうどドラマの続きが始まる。

さらにさらに、人間ドックへ行くと数値は正常値。

「すごいですね……いったい何をしたんですか?
 体のあらゆる悪いところが改善されているうえ、
 ガンまで自力で治ってしまっています」

「ふふふ、脳死していますから」

医者は目を丸くして「こいつ大丈夫か」という顔をしたが
残念ながら短い時間頻繁に脳をOFFにしているから
体はすっかり健康そのもので大丈夫なのだ。

脳死装置は最高だ!!



ただ、ひとつ不満があるとすれば
タイマーの最大が1時間までしかないという点。

「もっとタイマー伸ばせないかなぁ。
 そしたら、1度の脳死で済むのに」

長距離移動なんかの時は、一度脳死から醒めて
もう一度タイマーをセットするのが本当に煩わしい。

そこで、脳死装置の開発メーカーにやってきた。

「というわけで、タイマーの延長をお願いします。
 金がいるんだったらいくらでも出しますよ」

「いえ、問題なのはお金ではなく
 もしもの時のためで……」

なんだそれ。
タイマーを長くしたことで隕石でも降ってくるというのか。

「なんでもいいから延長してください。
 健康面も問題ないわけですし」

「はぁ……」

メーカーは渋々ながら俺から装置を受け取った。
数日後にはタイマー延長が済んでいるらしい。楽しみだ。

けれど、地獄はここから始まった。


「……長い」

横断歩道の待ち時間はこんなにも長かったか?
いつも脳死しているからわからなかった。

スーパーのレジの時間。
パソコンのダウンロードまでの時間。
風呂が沸くまでの時間。

なんて無駄な時間が多いんだ!!
そして、極めつけは……。


「さっきから『はいはい』ばかり!
 君はちゃんと私の話を聞いているのかね!!」

社長の説教。
装置がある生活に慣れすぎていたのもあり、
この説教がことごとく体に負担を感じさせる。

やっと解放されたと思ったら、
今度はふたたびエレベーターの工事中。

「すみません。電気系統の調子が悪いみたいで……。
 応急処置だけして、本格的な修理は数日後に」

「また無駄な時間だよ!!」

ダメだ!
もう耐えきれない!
この世界には無駄が多すぎる!!

俺は会社を出ると、装置メーカーに向かった。

「まだできないんですか!!
 たかが時間を延長するだけでしょう!?」

「まだ1日ですよ!?
 中身は入れても動作チェックも……」

「こっちはもう限界なんです!!」

半ば奪い取るように装置を回収した。
タイマーの限界は注文通りできているじゃないか。

「ああ、よかった。
 これで無駄な時間に付き合わされることもない」


翌日、もう恒例になりつつある社長の説教が始まった。
エレベーターの調子が悪いこともあり機嫌は最悪。

しかし、俺はまるで恐れていない。
なにせパワーアップした脳死装置があるのだから。

「ゆとり世代の奴はどいつもこいつもガミガミガミガミ!!!」

タイマーを2時間にセット。
グッバイ無駄な時間。




脳死から目が覚めると、体の疲れはなくなり
作品名:Now 脳死ing.... 作家名:かなりえずき