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忙しいビジネスマンのための1ページ小説~雪国~

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月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人なり
舟の上に生涯を浮かべ馬の口とらえて老をむかうるものは日々旅人にして旅を酉とす。
(月日というのは永遠に旅を続ける旅人の様なものであり、来ては去り去っては来る年もまた同じように旅人である。船頭として舟の上に生涯を浮かべ馬子として馬のくつわをひいて老いいく者は、日々旅の中にいるのであり、旅を住いとするのだ。)
                            
                        松尾芭蕉(奥の細道より)
 
 私は青森市からバスで30分ほど行ったところの山の上の酸ヶ湯温泉という所に来ている。
 大粒の牡丹雪が斜めに空気を切るような勢いでしんしんと降っていた。
 温泉の居間では旧型の煙突のあるストーブが大きく惜しみなく場所を取っている。
 
 店員同士で話をする。
「柿あまったすけ。食べねえか。ほらこんなにたくさん」
 テレビではフランスでテロがあった事件の報道がされている。
「いやあ。なんでこんなことするのよ」
 惨憺たる悲劇のニュースで私もテレビを一緒に見ていた。
 
 こんな、一大事のときは店員も客も関係ない。
 店員が、
「お客さん干し柿食べて、余ってるから」 
 私に話しているのだが、仲間に話しているのだか
「怖いねえ。日本もいつ何が起きるか分からないねえ」
 そう言った。
 
 受け取った干し柿の重さは文化大使の証の重さにも似ていた。
 
 赤ん坊がハイハイをして、こっちにくる。私の手に赤ん坊は手を重ねる。
 こそばゆいほど、愛らしいその手の感触に、私はこの小さな命を、

“絶対戦争とは無縁のものにしなくてはいけない”
 
 そう思った。
 干し柿をかじりながら番茶を飲み、思う言葉は、
 こんな温かい雪国には干し柿がよく似合う。
                                 (了)