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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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文句をつける奴は弁護してやる!

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「あなたね! なに考えているのよ!!」

今日も女社長はご立腹だ。
俺がやった仕事に対して矢継ぎ早にまくしたてる。

「私の指示通りにやっていればいいのよ!
 こんなことになったのはあなたが至らないからでしょ!
 何とか言いなさいよ! ほら!」

なにから言うべきか。
指示が間違っていたことだろうか。
先にとりあえず謝っておくべきだろうか。

いや、それより今空気を悪くしていることを――

「なにも言わないのね!
 それは間違いを認める気がないのね!」

「あ、いや……」

「もういい! あなたはクビよ!!」



俺は昔からけして口数が多い方ではなかった。
それだけに人と話す時も慣れない言葉というツールを使うので、
人より一歩も二歩も時間がかかる。

けれど、どうにもこの世界には
言葉をうまく使えないだけでとても生きずらくなるものだ。

「……そういう人がよく来るんですよ」

専属弁護人の紹介者はニコニコしながら話す。

「上手く人とコミュニケーションが取れない人や、
 つい余計な一言を言ってしまう人なんかが
 専属弁護人を雇いにいらっしゃるんです」

「一番腕がたつ人をください」

「一番の腕がたつベンゴー=ニンさんは、
 現在、別の人間の専属弁護人をしていまして……」

「じゃあ、おすすめを」

「では、うちの高橋を紹介しましょう」

紹介者が連れてきたのは、いかにも頭がよさそうな弁護人。

「はじめまして。A級弁護人の高橋です。
 これからあなたの専属弁護人として
 あなたの人生をことごとくうまく回すことをお約束します」

こうして、俺は専属弁護人を雇うことになった。


専属弁護人はいついかなるときも行動を共にする。
はために見ればSPの取り巻きのようにも見える。

「あら、あなたまた会社に来たの?」

クビになった会社に荷物を取りに来ると、
運悪く女社長と鉢合わせしてしまった。

ここは謝るべきか。
どうせ二度と来ないんだしキレるか。
それとも、状況を正しく――

「こちらの方は思い入れのある会社に
 荷物の整理と最後の別れのために来たんですよ。
 いろいろご迷惑はおかけしましたが、思い出はあるので」

俺より早く弁護人がするすると語る。

「まあ、長くはなかったけど、私も仕事した仲間だしね……」

「社長、実はあの時の仕事もデータが間違っていて
 時間がなかったのでこちらで処理したんです。
 結果的に指示には従わなかったものの、社長に恥をかかせたくなくて」

「あら、そうだったの?
 それじゃあ私が間違っていたのね、ごめんなさい」

「いえ、社長にはいつもお世話になっていますから。
 それにこちらも報告が抜けていたことが反省点です」

弁護人はあれよあれよと社長を丸め込んでいく。

「……と、ご依頼人は言いたいそうです」

そう締めくくった。



結果、俺のクビは誤解が解けたことで解消された。

「すごいな弁護人って」

「はい、私はA級弁護人。
 どんなことでも弁護してみせます」

話しながら歩いていたせいで、
思い切りガラの悪い連中とぶつかってしまった。

「っ痛ぇなぁ!! てめえどこ見て歩いてんだコラ!」

俺が土下座するより早く、弁護人が前に出る。

「申し訳ございません。
 実はこちらの方は足が不自由でうまく曲がれないんです。
 骨横脚症候群、ご存じないですか?」

「え? そうなのか。
 悪いことしたな、詫びとして受け取ってくれ」

謝るどころか逆に感謝されてしまった。
男が去っていくと、弁護人に感動した。

「すごい! なんでも弁護するんだな!」

「はい。私は人生弁護人。
 私の手腕をもって有象無象のありとあらゆることを弁護します」

それからは日常が一変した。



「ちょっと!! なに万引きしてるのよ!!」

「大変申し訳ございません。
 悪いと思ってはいるのですが、この方には病気の兄弟と
 寝たきりの両親で生活補助も……」

「あ、そうだったの? なら……いいわ」

万引きしても弁護人がいればどうとでもなる。

「付き合う? ムリムリ、私彼氏いるし」

「そうですか。ではあきらめましょう。
 この方と交際した女性は全員が宝くじに当たるということで
 ギネスブックにも記録されているんです。残念です」

「付き合うわ!!」

女にも困らない。
ギネスブックを勝手に用意してくるあたり、
俺はすっかり弁護人を信用していた。

その日までは。

いつものように俺は料金を払わずに、
スーパーのレジを通過し弁護人に弁護をさせようとした。

「待ちたまえ」

いつも軽くいなせる店員に、
今日だけは知らないスーツの男がそばに立っていた。

「君が料金を払わないせいで、
 この店の売り上げが下がりこの方の家族が飢えているんです」

「しかし、こちらの方は実は今日が余命最後の日で
 最後くらいこれまでやったことのない
 非日常を体験したいとこのことでやったんです」

「そうですか。それはつまり、
 自分のためであれば誰が迷惑しても関係ない、と。
 そういうことですか?」

店員と俺を放っておいての激しい口戦が始まった。
数時間後、俺は料金+迷惑料を払わされた。

俺の弁護人の完全敗北だった。

「なんで負けてるんだよ!
 お前は俺の専属弁護人のはずだろ!」

「ですが、そもそも悪いのはこちらです。
 しかも相手はA級弁護人でしたから……」

俺以外にも弁護人を雇う人間がいるなんて。
てっきりやりたい放題できると安心していた。

これでは、もう前のように安心して悪さできない。
常に「言い負かされる」リスクを恐れなくてはならない。

だったら、もっと腕がたつ人間を雇うまでの話だ。


俺はさっきのスーパーに戻って、
店員の弁護人をヘッドハンティングした。

そして、高橋のもとへやってきてクビを宣告した。

「クビ? 私がですか?」

「はい。こちらの方は僕という
 新しい専属弁護人をつけましたので」

「俺に迷惑料として、当然金は払うよな?」

俺はさらに言葉をつづけた。
力量で言えば、新しい弁護人の方が上だから
どんなムチャを言っても負けることはない。

「あなたがこれまでやった弁護と、
 それに伴う雇い主の迷惑料を鑑みるのは当然のことかと。
 こちらの方には現在植物状態の両親の介護で忙しいですから」

「…………」

あれだけ口達者だった高橋がついに黙った。
これはチャンスだ。

俺は畳みかけるチャンスだと指示を出した。

「いえ、そもそも迷惑料というのも寛大なんです。
 本来はあなたがそばにいることで
 ほかの人にも迷惑をかけたわけですしその分を差し引いても……」

いいぞやれやれ。
この分なら迷惑料どころか慰謝料ももらえる!

高橋は何も言い返せないまま、ただじっと耐えている。

「では、お金を支払ってもらえますね?」

そう締めくくると、高橋の後ろから別の男が現れた。



「はじめまして。私は高橋の専属弁護人をしております、
 S級弁護人のベンゴー=ニンといいます。
 高橋にかわって弁護させていただきます」


その後、俺は大量の迷惑料をむしり取られた。