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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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ミライ達成の消費期限

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「はーーい。
 みなさん、将来の自分の姿を想像して書いてくださいね」

クラス全員にスケジュール表のような未来予想図が渡された。

「お前はなににするんだよー」
「背がでかいからバレー選手か?」
「ここは安定したサラリーマンだろ」

友達はいろいろと口をはさんだが、
小学6年生で背もでかくませていた俺は、
誰よりも大きな夢をたくさん書いた。

※ ※ ※

大みそかの大掃除に備えての中掃除。
棚を掃除している時に、子供のころの未来予想図が出てきた。

「うわ、こんなの書いたっけ」

いつしか昔思い描いていた将来の自分なんて消し飛んで、
自分の身の丈に合った生活を選ぶようになっていた俺に
まるで突きつけるように出てきた。

中には一言。


将来の夢:IT企業の社長になる

消費期限:2016年11月23日


「……来年?」

まあ無理だろうな。
懐かしいものを見つけたので、旧友に連絡をしてみる。

「……ということがあったんだ」

『お前、そんなこと書いたのか!?』

友達はいやにシリアスに返してきた。

『いいか、消費期限は絶対に守れよ!
 前に夢を達成できなかった奴は……』

「ど、どうなったんだよ」

『わからない。ある日突然姿を消したんだ』

友達の声の調子で悪ふざけじゃないことがびしびし伝わる。
未来を達成できなければ……俺はどうなるんだ。

俺は恐怖に背中を押されて、死に物狂いで仕事を進めた。



11ヶ月29日後。

ついに、俺はIT企業の社長になることができた。
人間なにごとも本気でやればできないことなんてない。

「やったぞ! 夢を達成できたんだ!」

それもこれも未来予想図のおかげだ。

原動力が恐怖であったとしても、
これがなければ俺は何も挑戦しなかった。
いくつになっても、どんな状況でもあきらめちゃダメなんだ。

「ありがとう! 昔の俺!」

高々と予想図を掲げると、裏面に目が釘付けになった。


続・将来の夢:会社を世界規模に展開する
消費期限:2017年11月23日
 ↓
株価を2倍にして長者番付に載る
消費期限:2018年11月23日
 ↓
 ・
 ・
 ・

「うそ……」

終わっていなかった。
そうだった。

俺は誰よりもオトナぶって
細かくたくさん将来の夢を書いていた。

「ややや、やってやる! やってやるさ!
 人間、最後まであきらめなければなんだってできるんだ!!」




2017年11月22日。


運命の日の前日、俺の会社は倒産した。

消費期限の迫る夢の実現に焦った結果、
大事業をことごとく失敗し会社をたたむことになった。

もう死刑台の死刑囚そのものだ。

「うう……嫌だ……消費期限を守れなかった俺はいったい……」


翌日。

目を覚ますと学校にいた。

「はーーい。
 みなさん、将来の自分の姿を想像して書いてくださいね」

「お前はなににするんだよー」
「背がでかいからバレー選手か?」
「ここは安定したサラリーマンだろ」

ここは……小学校!?
まさか過去に戻されたのか!?

手元には書きかけの将来の夢がある。

「それじゃあ、そろそろ回収しますので
 まだ夢を書いていない人は急いでくださいねーー」

まずい。
ここで俺の未来を決めなくては。

前にやたら大きな夢を書いたために、
死に物狂いで仕事をしまくる最悪な日々だったからな。

今度はもっと自分に合った夢にしなくちゃ。


将来の夢:普通の家庭の、普通の会社員の、普通の生活
消費期限:2015年11月23日


将来の夢を書くと自動的に消費期限が刻まれた。

「これなら簡単に達成できるだろ!」



それから20年後、俺は過去の自分を呪った。


大学生の時に付き合った彼女と普通に結婚。
2流企業の悪くない役職について普通に仕事。
お金も多くはないが生活に困るほどでもない。

なにこれ。
なんだこの生活。

一人でIT会社を立ち上げる実力もノウハウもあるのに、
今やっていることはただのデータ入力。

まるで自分がパソコンの付属品になったような気分だ。

「あなた、どうしたの?
 最近なんだかすごく暗い顔をしているわ」

「いや……なんでもないよ……。
 ただ日々に、やる気というか熱意を傾ける先がなくって……」

こんなことなら前の方がよかった。
辛くて大変ではあったけれど、充実はしていた。

「あなた、なにか気分転換でもしたら?」

「ああ、そうだな」

気分転換……どうすればいいのか。
普通の生活の型にハマりすぎた俺には思いつかない。

そこで、普段は訪れない競馬場へやってきた。

「気分転換するなら、やっぱり普段と違うことしないとな!」

さっそく馬券を買って……。


"エラー。未来違反が確認されました"

"あなたは普通の生活じゃないことをしました"


急に頭の中に声が響いてきた。
そして、激しい光に包まれたかと思うと……。




「はーーい。
 みなさん、将来の自分の姿を想像して書いてくださいね」

再び小学6年生へと戻された。

「くそっ……! 未来予想図に違反するのもダメなのか!」

それじゃあ一体に何を書けばいいんだ!

大きな夢を書けば、達成でてんてこ舞い。
小さな夢を書けば、未来が窮屈になる。

「それじゃあ回収しまーーす」

書くべきは「必ず達成できる」かつ「未来が自由」な夢。
でもそんな夢なんて……。




「あった!!!」

俺は将来の夢にペンを走らせた。

先生は俺の夢を見た瞬間に、ぷっと噴出した。

「あははは、君の夢はこれなんだね。
 期待しているよ、頑張ってね」

「はい! 必ずビッグになります!」


将来の夢:ビッグになる
消費期限:2016年11月23日


これなら完璧だ。

会社を立ち上げて大きくするという意味でも、
自分の知名度を上げるという意味でも達成できる。

どちらとも達成できなかったとしても、
身長が伸びれば未来は達成できるし、やり直しの心配もない。

「完璧だ……完璧すぎる自分が怖い……」


先生が夢を回収すると、声が聞こえてきた。




"エラー。未来違反が確認されました"

"あなたは未来にビッグになれませんでした"


「ふざけんな!! そんなことあるわけないだろ!
 仮にそうだとしても、まだ小学6年生なんだから背くらい……」



"……お気の毒ですが、あなたの身長はこのまま変わりません"