拷問テーマパークの途中棄権
ここに来るなんてあなたも特殊な人ですね!」
拷問テーマパークのマスコットは元気に出迎える。
奥にはさまざまな拷問器具が並んでいる。
「ここでは、さまざまな拷問が体験できますよ♪
でも安心してください。
実際に体が傷ついたり、死んでしまうことはありません」
マスコットの説明で合点がいった。
最初に幽体離脱を求めたのはそのためだったのか。
「では、時間までどうぞごゆっくりお楽しみくだ……。
え? 一番キツい拷問はどれか、ですか?」
マスコットはこれまでのコミカルな動きを辞めて、
真面目な雰囲気を感じさせる。
「お客さん、本当にもの好きなんですね。
ええ、でもたまにはいるんですよ、最恐を求める人」
マスコットは妖しい動きで手招きする。
「さあ、こちらへどうぞ」
案内された先には、体を固定する装置だけがあった。
もっと痛々しいものがあるのかと思っていた。
「人は終わりが見えないことにこの上ない恐怖を感じます。
この拷問はそれを体験するのに最適なんですよ」
体を固定すると、上から水滴がぽつり、ぽつりと落ちてくる。
それだけ。
それだけなのに、水滴が落ちることで眠ることもできず
かといって起きていてもなにもすることはない。
これがどこまで続くのか先が見えない恐怖が押し寄せた。
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「お客さん、お帰りなさい。
どうですか? もう帰りたくなりましたか?」
首を横に振る。
「さすがです。実はさっきの拷問はあなたを試したんですよ。
このパークの最恐は、これまで全員が途中で逃げています。
だから案内する前にあなたを試したかったんです」
マスコットは鳴れた動きで次の拷問場所へと案内する。
「さあ、こちらへどうぞ」
案内された先には、金属でできた牛が置いてあった。
「人は閉鎖された状況でこそ、最大の恐怖を感じます。
この拷問はそれを体験するのにこの上ないですよ」
金属のウシはぎぎぎと思い音を立てて開いた。
牛の中に入ると、外側化で火がつけられたのが分かった。
金属がみるみる熱くなっていくと、
この閉鎖された中で熱さと暗さで頭がおかしくなる。
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「お客さん、お帰りなさい。
"ファラリスの牡牛"拷問はどうでしたか?」
顔色を見たマスコットは、目の色を変えた。
「ふふ、やはりあれが最後じゃないことわかったみたいですね。
さっきのはこのパークの2位。
1位にはもっと強烈な拷問があるんですよ」
一応、パークの案内図を見てみるも
さっきの『ファラリスの牡牛』拷問より怖いものはない。
「パンフレットには載せていないんですよ。
なにせ、体験した人で最後まで体験できた人はいないんですから。
でも、あなたなら初めてのクリアができるかもしれないです」
マスコットは隠し通路を出して、パークの裏側へ。
本当に最後の拷問を体験すべくそのあとに続く。
「最初の『水滴拷問』は終わりが見えない恐怖。
次の『ファラリスの牡牛拷問』は閉鎖された恐怖。
そのどちらも併せ持った、最悪で最恐の拷問なんです」
案内されながらも、
おそらく体験者であろう人間がすれ違っていく。
「うわぁぁもう嫌だぁぁぁ!」
「こんなの耐えられない!」
「あんなの続けてたら頭がおかしくなる!」
マスコットの言っていた誰も完走できなかったのは本当らしい。
どこまでも終わらない恐怖。
どうしようもできない閉塞感。
そのどちらも併せ持つ究極にして最悪の拷問。
「さあ、つきました。
ここがパーク最強の拷問場所です」
そこに待っていたのは……。
「『嫁との日々』拷問です」
「あなた! 休日なんだからどこか連れてってよ!」
「離婚? するわけないでしょ!」
「あなたはしゃべらないで。臭いから」
俺は耐えきれなくなって逃げだした。
作品名:拷問テーマパークの途中棄権 作家名:かなりえずき