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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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これが遺作です

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「もって、あと1年でしょうな」

医者の言葉に家族は顔をうつむかせた。

「バリバリ仕事をしてきた人はよくなるんです。
 情熱を傾けられるものがなくなった瞬間に、
 一気に老け込んでしまうことが」

「先生、どうにかならないんですか?」

「難しいでしょうな」

医者が去った後の重い病室にひとりだけ残された。
家族はもうどう接していいのかわからなかったのだろう。

「はぁ……情熱かぁ」

思えば、自分の人生といえば仕事仕事の毎日だった。
子供の誕生日も妻との結婚式よりも仕事ばかり。

定年してからというもの、
まるで目的のない毎日に、何も残せない自分にいら立っていた。

「最後の最後に……なにか残そう」

病室に支給されたのはパソコンとネット環境。
ぱっと思いついたのは遺書ではなく、遺作だった、

小説を書いてみよう。

それは自分の人生初めての挑戦だった。

 ・
 ・
 ・

「ダメだダメだ! こんなんじゃだめだ!」

書いてみてその難しさに驚いた。
文字をただ連ねるだけでは小説にはならないし
まして「遺作」として残す以上ハンパなものは作れない。

書いても書いてもまるで理想との溝は埋まらない。

できたのは小説というより自伝をもとにしたフィクションだった。

「……こんなもの発表しても遺作にふさわしくない」

遺作になるには、最高傑作でなければならない。
もっと自分の書きたいものを。伝えたいものを……。


いや、それでいいのか?


自分の書きたいものを書いても、見てもらえなければ価値はない。
それがいかに名作だったとしても。

「ふぅむ、やはり遺作として残すべきは自分の最高傑作ではない。
 わしが生きていたことを証明するためにも、
 より多くの人の心に訴えかけなければならない」

多くの人に読まれて、
多くの人に楽しんでもらえてこそ、わしの生きていた証が残せる。

ならば、最高傑作ではなく、最高の話題作を。

「わしが死ぬのが1年先だから……。
 1年先の流行を見越して遺作を作らなくてはな」

けれど、これがなかなか奥深い。
調べても調べても次に新しい流行が別角度で生まれてくる。

「必ず、遺作を残してやるんじゃ!!」


※ ※ ※

「……それがおじいちゃんの口癖でした」

医者はカルテを見てみて、本当に驚いた。

「いや、ほんと奇跡ですよ。
 余命1年から10年生きるなんて。
 これも人生の"やりがい"を見つけたからでしょうね」

「そうですね。ここ10年のおじいちゃんは、
 ひたすら流行を追うことが楽しみになっていたみたいです」

病室にはおじいちゃんが調べつくした資料の数々。
そして、ついに完成した遺作ができていた。

医者が手に取ると、家族がそれに気づいた。

「ああ、それはおじいちゃんが残した遺作です。
 でも、なんていうかその……」

「面白くないですね」

「ええ」

流行を追うこと自体が楽しくなったおじいちゃんの遺作は、
1年後には当たり前になる話をただ書いていた。

「これを遺作として公開するくらいなら、
 せめてこっちの方をネットとかで公開したほうがよくないですか?」

「ですね」

医者と家族はおじいちゃんの遺作として、
その作品をとりあえず発表することにした。

その作品は……『これが遺作です』という。
作品名:これが遺作です 作家名:かなりえずき