ノベリスト非難訓練のお知らせ
ノベリスト生徒のみなさんは"おかし"を守って
素早く非難訓練して校庭へ集まってください』
校長先生の声がスピーカーを通じて流れた。
それを合図に担任が話し始める。
「みなさん、それでは非難訓練をはじめます。
まずは避難訓練の"お"……"追わない"からです!」
お:追わない
か
し
「せ、先生! 私のコメント欄が大荒れです!」
生徒の一人が手を挙げてSOS。
すぐさま、鎮火しようとコメントに手をかける。
が、その手を担任が抑えた。
「追わない、です。
どんなにコメント欄が荒れても深追いしちゃダメです」
「でも、このままじゃ……。
それに私も自分の作品がこんなに言われて納得できません」
「いいですか、非難している相手はテキトーに斜め読みして、
テキトーに非難コメントしています。
そんな相手にあなたが事細かに説明しても聞いてもらえますか?」
生徒ははっとした。
確かにコメントも1行で収まる程度のものばかり。
とても思考フィルターを通したとは思えない。
「ね? 深追いしてはいけません。
言い返さなくても作品の価値が下がることはありません。
では、次です」
お:追わない
か:変えない
し
先生が説明しようとしたところで、
ひときわ顔色が悪そうなノベリスト生徒がいた。
「どうしたの? どこか具合が悪いの?」
「いいえ、先生。見てください」
ノベリストの人気作品一覧に、
小説の傾向や流行を非難しているものがあった。
「この作品で非難されている内容……。
ほぼ、僕の作品に当てはまっているんです。
僕どうしたらいいか……」
「"変えない"ですよ。安易に作風を変えてはいけません」
先生は優しい笑顔で答えた。
「流行や傾向を分析して非難しているような作品を読んで、
それに当てはまらないように変えてはいけません」
「どうしてですか……?」
「それが彼らなりの"非難の流行"なんですから。
別の流行が出れば、流れるように"非難の流行"は変わります」
ライトノベルが人気になれば、美少女を非難し。
純文学が人気になれば、難しいと非難し。
詩が人気になれば、中身がないと非難する。
「彼らの非難流行に付き合って作風を変えたら、
いつしか自分の書きたいものを見失ってしまいます。
では、次に行きましょう」
お:追わない
か:変えない
し:叱らない
これまでごちゃごちゃ語っていた先生だったが、
その説教臭さが鼻についたのか嫌がらせが始まっていた。
マイページ、作品コメント欄は大荒れ。
先生の発表した書籍もことごとくレビューは低くされた。
「先生、どうして"叱らない"んですか!
コメント削除することだってできるじゃないですか!」
完全にノーガードを貫く先生の姿に生徒が心配になる。
「いいですか。特にひどい場合は粘着されて、
ありとあらゆるところで非難されます。
ですが、けして"叱らない"でください」
「どうして!?」
「彼らは大事な宣伝塔だからです」
先生は粘着されている作品を見せる。
粘着がいるおかげでアクセス数も稼がれ、
ちゃんとした読者がブックマークを入れている。
「粘着非難で注目度が上がりますし、
本当にその非難が正しいのかちゃんと読む人も増えるんです」
「でも、叱らないというのは……」
「叱ってしまえば、同じ程度の人間として見られ
どうしても読者は距離を取ってしまいがちになるんです。
同じ作品でもすぐ怒り返す人よりは、笑顔の人がいいでしょう?」
生徒たちはみなメモを走らせた。
その様子を見て先生はにこりと笑った。
「みなさん、ノベリスト非難訓練はばっちりですね!
では実際の非難を体験して訓練を終えましょう!」
校庭にノベリスト生徒たちが集まった。
校長はよれよれのヨボヨボになっている。
「みなさんが非難されるまで20年かかりました……。
もっといい作品を書いて早く非難されてください……」
作品名:ノベリスト非難訓練のお知らせ 作家名:かなりえずき