意味を持たない言葉たちを繋ぎ止めるための掌編
あてもなく見知らぬ街を歩きまわりたい
白む朝の列車にゆられながら わたしは見知らぬ街へと向かう
読みかけの小説を 胸ポケットからとりだし
到着までの ささやかな時間を消費する
九頁ほど物語を読み進めると 到着を告げる音楽が車両に流れる
わたしは胸ポケットに本をしまい プラットフォームに降りたつ
ヒップポケットには わずかなお金
胸ポケットには 読みかけの小説
それだけが 今のわたしのすべてだ
わたしはあてもなく 見知らぬ街を彷徨いはじめる
わたしはなににも繋がられず 気まぐれに流されていく
小説の物語は 胸ポケットで寝息をたて
わたしの物語が この場所で そっと目を覚ます
作品名:意味を持たない言葉たちを繋ぎ止めるための掌編 作家名:篠谷未義