俺の体は2つしかない!
「明日遊びに行かない?」
「明日どうしても頼みたいことがあるんだ」
「くっ……そろそろ自分支店を出すしかないか」
もう俺ひとりでは、「俺」をすることができない。
支店を出して分担していく方がいいだろう。
さっそく、「俺」の面接が俺によって行われた。
応募者は履歴書をもって会場に入ってくる。
「以前から、誰かの支店として活動したいと思ってました!」
「動機が嘘っぽいのでダメ」
「つーか、支店になればー金もらえるんスよねー」
「金目当てなのでダメ」
「以前は山田さんの支店をやっていました。
ぜひ、あなたの支店をやりたいです、よろしくお願いします」
20人目の「俺」応募者にしていい感じの人が来た。
支店になるとたまに勘違いして、
自分こそオリジナルと思い始める危険もあったが
別の支店経験者ならその点は大丈夫そうだ。
「それじゃ君に「俺」をお願いするよ」
「ありがとうございます!」
こうして、俺2号がきまった。
翌日、さっそく2号は俺の代わりに日常を過ごすことに。
俺の代わりに打ち合わせに参加し、
俺の代わりに遊びに行って、
俺の代わりに頼みを聞いていく。
「いやあ、楽ちん楽ちん♪
最初からこうしていればよかったなぁ」
2号が俺の代わりになってくれているおかげで、
思う存分だらだらし放題。
ただ、それでも初めての支店ということで……。
「……本当に大丈夫かな」
時間がたつほどに、ちゃんと「俺」ができているか不安になってきた。
昨日の面接ではいい感じだったので、
問題ないと思うが同時に不安との板挟みになる。
「や、やっぱり見に行こう!」
大丈夫だと思うが、やっぱり気になるので2号を見に行くことに。
2号が俺の代わりに仕事をしているかどうか見に行くと、
ものすごい怒鳴り声が途中で聞こえてきた。
「なんだその口のきき方は! それでも社会人かっ!」
「ちっ……うぜぇな……」
「貴様! 上司に向かってうぜぇとは何事か!!」
慌てて2号のもとに駆け寄る。
上司としては同じ顔の人間が現れたので驚いている。
「お、おい! なにしてるんだよ!
ちゃんと「俺」の代わりにやってるんじゃないのか!」
「だって、オレは支店ッスから」
「んなことわかってるよ! 俺が依頼したんだから!」
「じゃなくて、別の人の支店ッスもん」
「……は?」
よくよく話を聞いてみると、
昨日の面接に来ていた男がオリジナルで、
今日に「俺」の代わりをしているコイツは2号なんだという。
「ま、オレっち毎日ヒマっすからねー時間はあるんス」
「だろうね! 誰もお前に仕事頼まないからだろ!
信頼される人間は頼まれるから時間ないんだよ!」
とにかくすぐに支店契約を解除した。
2号を使えなくなるのは痛かったが、
こんないい加減な男に「俺」を任せるわけにはいかない。
今後、「俺」支店をまかせるときは
そいつが支店じゃないかどうかも確認しなくては。
「まったく……支店を任せられたのを支店に頼むなんて、
いったいどういう神経しているんだか」
なんだか疲れてしまった。
新2号探しはまた今度にして、家に帰った。
家につくと、俺が待っていた。
「おかえり、俺2号」
作品名:俺の体は2つしかない! 作家名:かなりえずき