あなたは今日死んでいる
ハッピーDEATHデイ、トゥユー」
ケーキに立てられたろうそくを一気に吹き消す。
今日は俺の死亡日。
まだ死んでないけど、将来死ぬ日は決まっている。
「今年も死ななかったね」
「まだ死ぬ年連じゃないに決まってるだろ。
あと30年、40年後の今日に死ぬんだよ」
それに、事故で死ぬとしても
こうして毎年死亡日を友達とお祝いしていれば
よほどの事故じゃない限り死ぬことはない。
「死亡日に、ろうそくで火事になったりして」
「あはは。そんなわけないだろ」
俺は笑った。
翌年に言い出した友達が死ぬなんて思いもしなかった。
死亡日にかつての恋人に殺されてしまったらしい。
「そんな……」
どこかで死亡日は今の自分とは遠いところにあって、
こんな簡単に、あっけなく訪れるとは思いもしなかった。
「ハッピーDEATHデイ、ディア俺~。
ハッピーDEATHデイ、トゥユー」
ひとりきりで、ろうそくの火を吹き消した。
友達が死亡日に招いた元恋人によって殺された。
それ以来、誰かを自分の死亡日に招いてパーティしなくなった。
俺自身、いったいどこでどう恨みを買っているかわからない。
楽しく笑っているその陰で、殺意をくすぶらせているのかも。
「……でも、このまま死ぬのもなぁ」
もし、今年の死亡日に俺が死ぬとしても
誰もいない場所でただ孤独に死ぬのは寂しい。
ふと、カーテンを開けた時だった。
一瞬だけ見えていた人影が、一瞬で物陰に隠れた。
「今のは……女だった」
体中に冷汗が流れて、身の危険を感じた。
女の知り合いはいない。
考えられるのは死亡日に俺を殺す役に決まっている。
俺は鍵を閉めて、部屋に閉じこもって布団をかぶり震えていた。
女はあきらめたのか、俺は今年の死亡日を乗り切ることができた。
「ハッピーDEATHデイ、ディア俺~。
ハッピーDEATHデイ、トゥユー」
次の年も、俺はひとりでお祝いをしていた。
鍵も新しくして、ドアも窓も頑丈なものに作り替えた。
これなら、去年のあの女も押し入ることはできない。
死亡日を生き残れた安心に浸っている時だった。
黒い煙がどこからか部屋に入り込んでいる。
「……なんだ?」
気になって向かったのが運のつき。
俺の家が外から放火されていた。
逃げようにも煙を吸いすぎて体が思うように動かない。
頑丈に作り変えたせいで窓もドアも開けられない。
「うそ……これが……俺の死亡日……?」
「ハッピーDEATHデイ、ディア俺~。
ハッピーDEATHデイ、トゥユー」
次の年、俺は彼女と死亡日をお祝いした。
「君が火を外から消してくれなかったら、
もう今年の死亡日をお祝いすることはできなかったよ」
「あなたの家の近くでうろうろしている男がいたから、
怪しいなと思って監視していたの」
俺は自分の窮地を救ってくれた女と晴れて付き合うことに。
「私の死亡日は、あなたとは別日だから
こうして一緒にお祝いしている限りきっと安全だわ」
「そうだな。やっぱり人は一人じゃ生きられないんだね」
もう記念日なんてこりごりだ。
毎日、普通に生きていけることへのありがたさを実感する。
すると、彼女は電話をかけはじめた。
「はい、それじゃあホールケーキを1つお願いします」
ホールケーキ?
「なあ、どうしてホールケーキが必要なんだ?
明日はなにかの記念日だったっけ?」
「何言っているのよ。
明日は二人のケンカ記念日で、
あさっては、二人の不倫記念日で
しあさっては、二人の別居記念日じゃない」
二人になって激増した記念日が来るたび、
俺は毎年恐怖することになった。
作品名:あなたは今日死んでいる 作家名:かなりえずき