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でんでろ3
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novelistID. 23343
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逆説的……

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自転車をこいで、煙草屋の角を曲がると、1人の女性が歩道でクルクルと回っているのが目に入った。スカートがふわふわと傘のように広がっている。あれ? あの娘は……。
「さくらさん、何やってるの?」
 声をかけてしまってから、他人のふりをするべきだったかな? と思ったがもう遅い。
「何って、見て分からないのー?」
さくらさんは回るのを止めずに言う。
「なぜ、見て分かると思えるのかすら分からないんだけど?」
すると、さくらさんは、やっと回るのを止めて、こちらを向いた。
「急いでるに決まってるでしょう?」
たぶん、僕は一瞬固まったと思う。
「えっと、もうちょっと分かりやすく解説してくれないかな?」
それを聞いた彼女は、やれやれといった具合に肩をすくめた。
「『急がば回れ』って言うでしょ! そんなことも知らないの?」
僕はあっけに取られ、声をかけてしまったことを心底後悔した。
「いろいろ言いたいことはあるんだけど、たぶん疲れるだけだから省略して……、何を急いでいるの?」
「バッグをひったくられたの」
「それ、マジ、大変でしょ! 犯人どっちに行った?」
「あっち」
と言って、駅と反対の方向を指さした。
「で、犯人は、車? バイク? 自転車?」
「いやぁねぇ、犯人は人間に決まってるでしょ」
「んなこたぁ、分かっとる! 何に乗ってたかって聞いてるんだよ!」
「何にも乗ってないわよ。走って逃げたわ」
「それを先に言え! 後ろに乗って! 追うぞ!」
 さくらさんが自転車の荷台に乗るのと同時に自転車を猛ダッシュで走らせる。
「犯人が、どこをどっちに曲がったか分かる?」
「あの角を右に」
その角に飛び込む。
「あ、いたわ! あいつよ!」
見ると、赤いジャンパーを着た男が、遥か前方を走っている。
「しっかりつかまって!」
僕は全力で追った。犯人の背中は確実に近づいてくる。しかし、あと80m程の所で犯人に気付かれた。犯人は一番近い角で曲がった。僕も出来る限りスピードを落とさずに追った。
 しかし、犯人の姿はなかった。
「どういうことだ?」
「考えるほどの事でもないでしょ。どこかに隠れたのよ」
「どこかって、どこ?」
「あれなんか、おあつらえ向きよね」
彼女の視線の先には、古びた廃工場があった。
「行きましょう」
「危ないよ!」
彼女が行こうとするので、僕は止めた。
「『虎穴に入らずんば虎児を得ず』って言うでしょ」
「『君子危うきに近寄らず』とも言うよ」
「とにかく、すぐに取り返さなくちゃならないの」
彼女の瞳の奥には悲壮な決意が秘められているようだった。
「分かった。僕が1人で行く」
「それこそ危ないわ。行かせられない」
「『可愛い子には旅をさせよ』ってね。一回り大きな男になって帰って来るよ。さくらさんは、自転車にまたがって、ここにいて。もし、犯人が飛び出して来たら全速力で逃げるんだよ」
僕は、さくらさんに止める暇を与えずに、廃工場へと駆け出した。
 とは言ったものの、腕に自信があるわけじゃない。できれば、犯人とのご対面なんてしたくない。けど、仕方がない。とりあえず、怪しいと思った物陰を恐る恐る覗くと……。
「うわーっ!」
「どわーっ!」
いきなり犯人と鉢合わせた。
 僕は、犯人と激しくもみ合った。くんずほぐれつしているので、お互いに有効な打撃は出せない。関節技や絞め技を知ってる奴だったらヤバかったが、そんなことはなかった。しかし、やがて犯人は俺を振り切って逃げていった。
「さくらさん、逃げて!」
僕はそう叫びながら犯人を追った。廃工場を出た僕の目に信じられない光景が飛び込んできた。
「攻撃は最大の防御なりーっ」
そう叫びながら、さくらさんが自転車を振り回していた。これには犯人も一瞬怯んだが、そんな大振りな攻撃が当たるわけもなく、犯人は、さくらさんを避けて易々と逃げていった。
「さくらさん、逃げてって言ったでしょう?」
「だって……」
「そんなに大事なバッグなの?」
「バッグって言うか中身が……」
「じゃあ、はい、これ」
僕は後ろ手に持っていたバックをさくらさんに手渡した。
「えっ、これ?」
「『負けるが勝ち』ってね。戦いには負けてバッグだけ取り返したのさ」
「ありがとー!」
さくらさんは思わず僕に抱き着いてきた。
「で、一体何が入ってたの?」
「へへー、これよ」
心底嬉しそうに彼女がバッグから取り出したのは?
「ジャーン、ガリガリ君コーンポタージュ味。これ手に入れるのに苦労したのよね」
「確かに一刻を争うねぇ」
僕は、あまりの事にガックリと膝を落とした。
「『骨お降り損のくたびれもうけ』、か」
「『損して得取れ』よ。ガリガリ君、分けてあげるから。ねっ、嬉しいでしょ」
「そうね。『情けは人の為ならず』ってか。やれやれ」
さくらさんとお近づきになれて、果たして良かったのだろうか?
 まぁ、良くなかったとしても、災い転じて福となそう。
作品名:逆説的…… 作家名:でんでろ3