批判できるならやってみろ
「この世の中はどういつも馬鹿ばかりだ!」
「政治家というやつはこれだから!」
「最近の若い奴はみんなダメだ!」
今日も電車で優先席に座るちゃらい男を注意すると、
逆ギレされたあげくに周りの客から俺が悪いみたいに思われる。
「まったく、この世界はどうなってしまったんだ」
駅に降りると、ぽんぽんと肩を叩かれた。
「やっと見つけました。
あなたに、ぜひ来てほしい場所があるんです」
※ ※ ※
男に連れられてきたのは「思いやり世界」。
人々はみんな優しい笑顔を絶やさない。
「……思いやり世界?」
「ええ、ここでは批判というものが存在しないんです。
相手を思いやって、お互いをほめ続けているんですよ」
ぐるりと世界を見回すと、
建物はがったがたで、電車やバスも遅れっぱなし。
けれど、誰も批判をしていない。
それどころか。
「いいんですよ。こうしてゆっくりできる時間ができますから」
褒め合ってしまっている。
「私どもの最高傑作であるあなたであれば、
"批判"をしてどうかこの世界を正しい方向へ導いてくださると」
「なるほど」
俺は世界に繰り出すと、目についたものをどんどん批判していった。
「ほらここ曲がってる!」
「ここは禁煙だ! 向こうへ行け!」
「こんなのは全部間違っている!」
嫌われるだけかと思っていたが、
思いやりの世界で俺以外に「批判」できる人間はいない。
だから当然、俺も批判されることはなかった。
「「「 批判してくださってありがとうございます! 」」」
うん、悪くない。いい気分。
・
・
・
あれから10年、この世界もすっかり変わった。
「いやあ、あなたのおかげでこの世界もよくなりました。
今やこの世界であなたは神に等しい存在ですよ」
批判を受け止め続けるので世界はどんどん改善される。
もはや、どこをどう見ても批判できないほどに。
「これからも、バンバン批判してこの世界を良くしてください」
「あ、ああ……」
これ以上、いったい何を批判すれば……。
ストレスを感じ始めていると、
人々が俺の姿を見つけて寄ってきた。
「次の批判をお願いします!」
「まだ批判する場所はあるんですよね!?」
「もっとこの世界を正しくしたいんです!」
「えーー……あーー……」
どうする、どうする、どうする。
なにを批判したらしい。
どう批判したらいい。
もうこの世界で批判できる箇所なんて……。
ボンッ。
頭から間違いなく音が聞こえ、そのまま意識を失った。
目を覚ますと、機械の整備工場だった。
「ああ、お目覚めですか。Hih-002-aN」
寝たまま自分の体を見ると「ひっ」と短い悲鳴が出た。
自分の体内に機械の部品がむき出しになっている。
「黙っていましたが、あなたは批判ロボットです。
この世界を良くするために、私たちが開発していたんです」
「そ、そうなのか……」
「でも、構造的に過度のストレスを感じると爆発します。
さっきのは一瞬だけストレスを感じたので爆発しました」
「だ、大丈夫なのか!?」
「はい。あくまでも小爆発ですから。
それに、見てください。さらにパワーアップしたんですよ」
ベッドから体を起こすと、
自分の背中に「Perfect HIHAN」なるエンジンがついている。
「二度と小爆発を起こさないように、
いついかなるときでも批判できるようにしました。
これなら、答えに詰まってストレスを感じなくなるでしょう?」
「デザインがダサいんじゃ!」
思わず口から批判が出た。
俺の脊髄反射以上のスピード批判に、博士はにっこり。
「ね? これならもう大丈夫でしょう?」
世界に戻ると、俺の批判を求めて人が集まった。
「また批判してください!」
「色合いがムカつく!」
「批判お願いします!」
「取っ手がつかみにくい!」
「批判ください!」
「お前の顔が気に食わん!」
「「「 ありがとうございます! 」」」
ノン・ストレス。
これまで批判をいちいち考える必要があったが、
今度は自動で批判がぽんぽん出てくる。
これならこの世界がどんなに完璧になったとしても、
俺が答えに詰まってストレスを感じることはない。
「Hih-002-aN、どうやら君の批判は完璧だ。
どうだろう、元の世界に戻ってはみないか?」
「そうだな、この世界のように良くしてやろう」
批判されたところで、批判し返すことができるから
前のように答えに詰まってストレスを感じることなどありえない。
元の世界に戻ると、すぐに批判が口をついて出てきた。
「なんだこれは! もっといい形があるだろ!」
「こんなのはおかしい! こんな法律間違っている!」
「つまらない! このサイトの小説は全部ゴミだ!」
すると、人々は同じ返事をした。
「じゃあ、お前はできるのか」
俺は大爆発した。
作品名:批判できるならやってみろ 作家名:かなりえずき