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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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批判できるならやってみろ

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いつからか目に見えるものすべてが鼻につくようになった。

「この世の中はどういつも馬鹿ばかりだ!」
「政治家というやつはこれだから!」
「最近の若い奴はみんなダメだ!」

今日も電車で優先席に座るちゃらい男を注意すると、
逆ギレされたあげくに周りの客から俺が悪いみたいに思われる。

「まったく、この世界はどうなってしまったんだ」

駅に降りると、ぽんぽんと肩を叩かれた。

「やっと見つけました。
 あなたに、ぜひ来てほしい場所があるんです」

※ ※ ※

男に連れられてきたのは「思いやり世界」。
人々はみんな優しい笑顔を絶やさない。

「……思いやり世界?」

「ええ、ここでは批判というものが存在しないんです。
 相手を思いやって、お互いをほめ続けているんですよ」

ぐるりと世界を見回すと、
建物はがったがたで、電車やバスも遅れっぱなし。

けれど、誰も批判をしていない。
それどころか。

「いいんですよ。こうしてゆっくりできる時間ができますから」

褒め合ってしまっている。

「私どもの最高傑作であるあなたであれば、
 "批判"をしてどうかこの世界を正しい方向へ導いてくださると」

「なるほど」

俺は世界に繰り出すと、目についたものをどんどん批判していった。

「ほらここ曲がってる!」
「ここは禁煙だ! 向こうへ行け!」
「こんなのは全部間違っている!」

嫌われるだけかと思っていたが、
思いやりの世界で俺以外に「批判」できる人間はいない。

だから当然、俺も批判されることはなかった。

「「「 批判してくださってありがとうございます! 」」」

うん、悪くない。いい気分。


 ・
 ・
 ・

あれから10年、この世界もすっかり変わった。

「いやあ、あなたのおかげでこの世界もよくなりました。
 今やこの世界であなたは神に等しい存在ですよ」

批判を受け止め続けるので世界はどんどん改善される。
もはや、どこをどう見ても批判できないほどに。

「これからも、バンバン批判してこの世界を良くしてください」

「あ、ああ……」

これ以上、いったい何を批判すれば……。

ストレスを感じ始めていると、
人々が俺の姿を見つけて寄ってきた。

「次の批判をお願いします!」
「まだ批判する場所はあるんですよね!?」
「もっとこの世界を正しくしたいんです!」

「えーー……あーー……」

どうする、どうする、どうする。
なにを批判したらしい。
どう批判したらいい。

もうこの世界で批判できる箇所なんて……。


ボンッ。

頭から間違いなく音が聞こえ、そのまま意識を失った。
目を覚ますと、機械の整備工場だった。

「ああ、お目覚めですか。Hih-002-aN」

寝たまま自分の体を見ると「ひっ」と短い悲鳴が出た。
自分の体内に機械の部品がむき出しになっている。

「黙っていましたが、あなたは批判ロボットです。
 この世界を良くするために、私たちが開発していたんです」

「そ、そうなのか……」

「でも、構造的に過度のストレスを感じると爆発します。
 さっきのは一瞬だけストレスを感じたので爆発しました」

「だ、大丈夫なのか!?」

「はい。あくまでも小爆発ですから。
 それに、見てください。さらにパワーアップしたんですよ」

ベッドから体を起こすと、
自分の背中に「Perfect HIHAN」なるエンジンがついている。

「二度と小爆発を起こさないように、
 いついかなるときでも批判できるようにしました。
 これなら、答えに詰まってストレスを感じなくなるでしょう?」

「デザインがダサいんじゃ!」

思わず口から批判が出た。
俺の脊髄反射以上のスピード批判に、博士はにっこり。

「ね? これならもう大丈夫でしょう?」



世界に戻ると、俺の批判を求めて人が集まった。

「また批判してください!」
「色合いがムカつく!」

「批判お願いします!」
「取っ手がつかみにくい!」

「批判ください!」
「お前の顔が気に食わん!」


「「「 ありがとうございます! 」」」

ノン・ストレス。

これまで批判をいちいち考える必要があったが、
今度は自動で批判がぽんぽん出てくる。

これならこの世界がどんなに完璧になったとしても、
俺が答えに詰まってストレスを感じることはない。

「Hih-002-aN、どうやら君の批判は完璧だ。
 どうだろう、元の世界に戻ってはみないか?」

「そうだな、この世界のように良くしてやろう」

批判されたところで、批判し返すことができるから
前のように答えに詰まってストレスを感じることなどありえない。



元の世界に戻ると、すぐに批判が口をついて出てきた。

「なんだこれは! もっといい形があるだろ!」
「こんなのはおかしい! こんな法律間違っている!」
「つまらない! このサイトの小説は全部ゴミだ!」

すると、人々は同じ返事をした。


「じゃあ、お前はできるのか」


俺は大爆発した。