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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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¥セカイレンタル1泊2日

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「ここ、ここ、ここもできてない!
 私に出す前にミスに気付けなかったのか!」

「……すみません」

また今日も怒られた。
でも、俺のミスなのだからしょうがない。

「しょうがない……しょうがない……」

上司に怒られた日の帰り、
見慣れない店ができていることに気が付いた。


『セカイ レンタル店』

どこかのバンド名みたいな店なので中に入ると、
なんてことはないただのDVDレンタルショップだった。

おそらく、店の名前が「セカイ」なんだろう。

「せっかくだし、映画のひとつでも借りるか」

いくら探しても知っているタイトルがない。
並んでいるのは「100562886541」などの数字のタイトル。

「あの、これってなんですか?」

「セカイ、ですよ。こちらレンタルしますか?
 1泊2日で300円です」

「値段設定は普通のレンタルショップなんだな……」

試しに『100562886541』を借りてみることに。
家でパッケージを開けると、ディスクは入ってなかった。

そのかわり、勝手にテレビがついた。

『○○さんがIT企業アッポルの株価を2倍にしました!』

俺には部下がいないのに、まるでそれが部下のように感じる。
部下の出世が自分のことのように嬉しい。

「ああ、よかった。本当によかった……」

自然と涙があふれ、これまでの苦労が報われた気がした。
記憶の中にはまるで心当たりがないけれど。




「セカイ返却ですね、ありがとうございました」

「あの、セカイってなんですか?」

俺は思い切って店員に聞いてみることに。
2日が過ぎると世界は元通りになっていた。

「セカイは、借りた人に別のセカイを体験させるんです。
 まあ、いわば現実逃避の理想体験って感じです」

「……はあ」

わかるような、わからないような。

俺がわかるのはセカイを借りた日だけ体験できることくらい。

「じゃあ、これ借ります」
「まいど」

家に帰ってセカイを開ける。


「えええええ!? ぜ、全然違う!?」

最初のセカイとはまるで異なり、今度は一面お菓子畑。
おとぎの国にでも迷い込んだみたいだ。

別のセカイを開けると、一流スポーツ選手として金メダルを取っていた。

「ありがとう! これもコーチと応援してくれたファンのおかげです!」

心当たりも記憶もないけれど。

別のセカイを開ければ、今度は町に地球防衛軍となって……

 ・
 ・
 ・

すっかり俺はセカイのとりこになっていた。

ただ1つ不満があるとすれば、
セカイが内容で選べないので当たり外れが大きいこと。

「さて、セカイも尽きたし借り足しにいくか……」

レンタル店に向かうと、前の客がパッケージを持ちながら店に入っていく。
見たところレンタル用のパッケージじゃない。

客はカウンターに近づくと、ソレを渡した。

「ご提供ありがとうございます」

店員は当たり前のように受け取っていたので、
俺は気になって客が帰った後で聞いてみた。

「さっきのって、なんなんですか?」

「ああ、セカイ提供者ですよ。
 あなたも自分のセカイを提供しますか?」

渡されたのはまっさらなパッケージ。

「ただし、商品にできなくなるので
 一度セカイを作ったら開封しないでくださいね」

店員と別れて家に帰った。
パッケージを開けると、一瞬で目の前が真っ白になって気絶した。

目を覚ますと、パッケージにはタイトルがつけられていた。

『885691220347』

見覚えがある、この数字。

「あっ! マイナンバーだ!」

そうか、この数字はマイナンバーだったんだ。
ということは、店に並んでいるセカイすべて
誰かのセカイが提供されていたものだったんだ。

さっそく出来立てのセカイを提供することに。

「はい、セカイ提供ありがとうございます」

「あの、さっそく借りたいんですが」

「ダメです」
「えっ」

「自分のセカイは借りれないんです」

「なぜに!?」

それじゃ俺はほかの人のセカイしか体験できないのかよ!

「セカイは提供者の心の奥にある深層理想ですから」

「だったらなおさら……」

「とにかくダメです。
 深層は秘めているからこそ、知ってはいけないんです」

納得できなかったが、店員は一歩も譲らなかった。
仕方ないので諦めたが……どうしても気になる。

店に通っては自分のセカイを眺めていた。

そんなある日。

「あの! なんで俺のセカイが廃棄なんですか!?」

「いや、だって人気ないので……。
 それに見た人からの苦情も来ていましたし」

俺が提供したセカイは
「廃棄予定セール♪」のワゴンに詰められていた。

いったい何がいけなかったのか。

「どうせ捨てるなら俺にくださいよ!」

「ダメです」
「むきーー!!」

だったら、何としても借りてやる。

誰かに頼めばすぐ借りられるが、
自分の深層理想を提供していることを知られたくはない。
"あいつこんなこと考えているんだ"とか思われそうで。

顔を作り変え、声をつぶして店に向かう。

「ごれ゛ぐだざい゛」

「あ、えと、はい……」

店員は不審な客だとは思っているようだが、
それが俺だとは気付いていない。

「では、念のためマイナンバーの提出を。
 一致している方にはレンタルしていませんので」

ふふふ、そんなところにも抜かりはない。
他人から借りたナンバーを渡した。

「……はい、確認しました」

やった! ついに自分のセカイを手に入れた!
俺の深層理想が体験できる!


裸の女だらけのハーレム世界だろうか。
億万長者の楽しいセレブ世界だろうか。
地球のグルメを食い尽くす世界かも。

期待に胸を躍らせて、パッケージを開けた。




手には金属バットを持っていた。
目の前には縛り付けられて動けなくなっている上司。

「すまなかった! 助けてくれ!
 あんなに怒って悪かった! 許してくれ!」

顔が自然とにやけてくる。
俺はバットを振り上げ……。



――セカイ終了

「はぁっ……はぁっ……」

知りたくなかった。
こんな自分知りたくなかった。

セカイ体験している自分は笑顔で上司を殴り潰していた。

店員が貸し出しを許さない理由が身に染みた。
自分でも気づかないから深層理想なんだ。

自分の奥にあるものを引っ張り出してなんになる。

「はやく、早く別のセカイを見よう!
 このままじゃ自分自身に耐えられなくなる!」

一緒に借りた『100562886541』を開いた。
部下の成功物語に荒んだ心が癒された。


もう自分のセカイは返却できないので廃棄し、
借りていた『100562886541』だけを返しに店へ向かった。

店に入ると、ひとりの客と目が合った。

「お、お前がどうして私のセカイを持っている!?」

上司だった。
上司は俺の持っているセカイを指さしていた。


※ ※ ※

「ここ、ここ、ここもできてない!
 私に出す前にミスに気付けなかったのか!」

「はい、すみませんでした。すぐに修正します」

あれからもう上司の言葉に逆ギレすることもなくなった。