オチだけがない物語
それまでの設定すべてが吹き飛んだ。
※ ※ ※
「おお、本当にすごいんだなオチ爆弾って」
大爆発の影響でこの世界の設定はすべてリセット。
合わせて俺の記憶も吹き飛んだので、
爆発前の設定がどうだったのかはわからない。
今度の世界は、壁の中にいる世界で俺はドラキュラ。
設定からして意味が分からないし、
おそらくバッドエンドな気配がする。
「よし、もう一度オチ爆弾使ってみよう。
本当にどんな設定の世界からでもオチになるのかな」
オチ爆弾を使ってみると、
壁がすべてふきとんでドラキュラの世界は絶滅。
その結果、パソコンのOSとなって生まれ変わった。
「おお、さすがはオチ爆弾。
本当に別の設定になったぞ」
でも、最初のようにすべてリセットとはいかない。
「あれ? 俺はまだドラキュラの設定のままだ。
不老不死の体になっているぞ」
オチ爆弾で世界の設定は吹き飛んだものの、
主人公である俺の設定そのものはまだ変わっていなかった。
パソコンのOSとなった今でも、
ドラキュラの不死身性は残っている。
「待てよ……このままオチ爆弾でいろんな世界に行けば、
俺はどんどん万能で無敵の人間になれるんじゃないか?」
オチ爆弾を使った。
PCが吹き飛んで新しいパラレルワールドへつながった。
今度は闘牛士アイドルになっていた。
オチ爆弾を使った。
今度は全世界が氷漬けの世界につながった。
オチ爆弾を使った。
体がおもちゃになった世界になった。
オチ爆弾を使った。
オチ爆弾を使った。
オチ爆弾を使った。
オチ爆弾を使った。
・
・
・
「わははは! 大成功だ!」
オチ爆弾で世界を何度も終わらせたことで、別世界に行ける。
俺の設定はもう書ききれないほどの数になっていた。
けれど、画面右のスクロールバーに気が付いてしまった。
「……あれ、もうかなり進んでいるのに、
ぜんぜん本当のオチが見えてこない……」
オチ爆弾をすぐに使っていたせいで、
本筋のストーリーそのものが進まなくなっていた。
それどころか設定を増やしすぎて、
オチ爆弾ですらもう片付かないことに気付いた。
「そ、そうだ! オチ爆弾をまとめて爆発させれば……」
オチ爆弾を使った。オチ爆弾を使った。オチ爆弾を使った。
今度の世界は科学者たちが世界を支配する……
「ああ、ダメだ! 別の設定に移るだけだ!
これじゃ物語がいつまでもオチにならない!」
そこで、この世界で最も権威のある科学者のもとに向かった。
「あの、なんとか最高のオチ爆弾を作ってくれませんか。
俺のとっちらかった設定すべて吹き飛ばせるようなやつ」
「無理ですね」
「はやっ」
「最高性能のオチ爆弾を作ることはできます。
ですが、それでこの物語をオチさせることはできません」
「だったらどうすればいいんですか!
このままじゃずっと俺はいろんな設定の世界を動き回るだけです!」
科学者はその言葉に、ひとつの爆弾を差し出した。
「それは?」
「これは初期化爆弾です。
これを使えば、きっと後悔することになります。
それでもこの物語を終わらせることはできます」
「よっぽどひどいオチで終わらせるんですね」
「……というより、あなたが気の毒です。
毎回同じことをし続けるなんて辛すぎです」
「はあ?」
しかし、俺は不老不死で不死身でドラキュラで
パソコンでアイドルで人造人間でおもちゃで炎の体。
どんなに辛いことが起きようとも耐えられる。
「ようし、これでこの物語にオチがつくぜ!」
俺は初期化爆弾を使った。
物語の冒頭に巻き戻った。