脱獄王vs俺
「ええ、監禁した時間に応じて報酬をお支払いいたします。
途中で脱出されれば報酬はナシなのでご注意を」
「6時間でお願いします」
「では成功報酬は6000万円です。
6時間後に脱獄王を回収に来ますから」
監禁する場所は監獄でもなんの変哲もない
賃貸住宅の一室。俺の部屋。
相手は完全無敗の脱獄王だから油断はできない。
脱獄王が部屋に来る前に、
部屋のありとあらゆるものを外に出した。
スプーン1本でも壁を壊して脱獄されそうだからだ。
ひとたび脱獄されれば6000万はパーになる。
「この部屋から脱獄すればいいんだな?」
部屋から完全にものがなくなり
さながら引っ越し前のようになったころ脱獄王は到着した。
窓とドアを外から鍵を締め、部屋に監視カメラを設置して
俺は部屋を明け渡した。
「さすがに出れないだろ……」
ガラスやドアも頑丈なものに差し替えている。
これで6000万手に入るなら安いものだ。
脱獄王は部屋に閉じ込められると、
どこか脱獄スペースがないかうろうろと探していた。
「ふふ、無駄だ。通気口もパイプの隙間もふさいである。
どこにも脱出できるスペースなんてない」
すると脱獄王は持っていた携帯電話で電話をかけた。
まもなく部屋の外にピザの配達員がやってきた。
「ちわーっす。ピザですけどぉ」
「たっ! 助けてくれ!
ケガをして動けない! 大家さんに鍵を借りてきてくれ!」
「ええ!? ああ、はい!」
配達員はドア越しの切羽詰まった声に反応し大家さんのところへダッシュ。
「させるかあああ!」
監視カメラを見ていた俺も慌てて大家のもとへ急いだ。
すんでのところで配達員を止めることができた。
「あぶねぇ……もう少しで脱獄されるところだった」
一度、ドアを開けて脱獄王のもとへ行く。
「手荷物検査をさせてくれ。
俺は監禁側だからそれくらいの権利はあるだろう」
「わかったよ」
持っていたのは、携帯、時計、ピッキング道具などなど。
すべての道具を没収しておく。
「待ってくれ、時計だけはいいだろう?
この部屋には時計がない。あとどれくらいで終わるかわからない」
「……まあ時計なら」
一応、変な仕掛けがないかチェックする。問題なし。
「時間合わせたいんで、時計を見せてもらっても?」
「早くしてくれよ」
俺は時計を渡し、脱獄王は時間を合わせた。
まもなく監禁ゲームが再開された。
・
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「動かないな」
俺の道具没収がよほど響いたのか、
あれだけ活発だった脱獄王はおとなしくなった。
とはいえ、油断はできない。
「今動かないってことは、どこかで必ず脱出するはずだ。
時間最後まで絶対に目を離してたまるか」
こうなれば外部協力者も考えられる。
俺は時計で何度も残り時間を確認しながら監視を続けた。
――6時間が経過した。
「やった! やった! 監禁成功だ!!」
何度も時計をチェックして時間を確認したが間違いない。
ドアを開けると脱獄王は間違いなく部屋にいた。
「ははは! 監視カメラの映像がウソってこともない!
やった! 監禁成功だ! 6000万……うわっ!」
脱獄王はよほど悔しかったのか、
俺を押しのけ部屋の外へと逃げていった。
「さて、あとは6000万円を受け取るだけだな」
ゲーム主催者は、しばらくしてからやってきた。
「ずいぶん遅かったですね。
ゲーム終わったらすぐに来てくれるものかと」
「はい、そうですよ。
6時間後にすぐに迎えに来たじゃないですか」
「えっ」
「えっ」
主催者は俺がずっと見ていた時計を確認した。
「あなたの時計、ずいぶん進んでいますね。
今がちょうど6時間後のゲーム終了時刻ですよ?」