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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅰ

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 階段の手すりに右手をつき、やや身をかがめたバーテンダーが、鋭い目で美紗を見据えていた。白いシャツの袖口から出る骨太い手は、片手で小柄な女一人の動きを容易に封じられそうなほど大きかった。
「ホットカクテルでもいかがですか。今日は一月にしてはずいぶん暖かい陽気でしたけど、この時間に上着もなしで外にずっといたんじゃ、体がすっかり冷え切っているでしょ?」
 つい先ほどとはガラリと違うその声は、威圧感さえ帯びていた。この男がいつ自分を追い越して先にビルの中に入ったのか、美紗には全く分からなかった。この期に及んで怖いものなどないはずなのに、その場に座り込んでしまいそうなほど体が震える。
「それとも思い出のカクテルがいい? 死にたいほど沈んだ気分の時にいきなりマティーニじゃ、悪酔いすると思うけどね」
 突然ぞんざいな口をきいたバーテンダーの顔を、美紗は驚愕の表情で見上げた。

 この人は、どこまで知っているの?