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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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十和田湖畔 (2)

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あたしは彼と同体になっている。彼がタバコを吸っていたように、あたしは煙を燻らしながら、彼が座った椅子に腰を下ろした。優しさがあたしの心の中で熟成したかのように、愛情に変わった。あたしは彼に愛を感じた。妻帯者。年齢差。たった1回の出会い、それなのにあたしに愛をくれた。彼は神だと感じた。近寄り難いと、だから感じた。初老の彼のどこに魅力があったかと、友は言った。魅力は無かったのかもしれない、普通の風景の様だったから・・彼が十和田湖畔に立って、あたしのケイタイに収まるとき、ただの記念であったのだから、彼は妻への証明だと言ったはずだ。まだ、あたしは死と生のどちらを選ぶか迷っていた。彼が生きる悦びを与えてくれることを、期待してはいた。
 彼を記念のつもりで撮った時、無意識の中に生きる希望が湧いていたのだろう。あたしは今そう感じている。彼があたしの体に触れたとき、あたしは、男から、彼が、獣になるのを観たかと思うと、優しいあたしを守ってくれるたった1人の味方にも感じた。行為の途中で、彼はあたしから離れた。初めて男に体を許す、あたしには何のことか分からなかった。男女の行為はこんなものかと思ったのだから・・あたしはとても嬉しかった。身体が火照った。いつまでもその火照りは残っていた。
 燻らす煙を、輪に変えた。何度も何度も練習した。彼がその輪の中にいるのだからと・・左ハンドルの車も運転してみたくて、レンタカーを借りたりもした。助手席にはハンチング帽子を座らせた。そのたびに、ケイタイを手にする
「おじさま、お時間ありますか?錦糸町まで来ています。デズニーランドに行きませんか?」
と、宛先の無いまま声を出す。一之江を過ぎ、あたしは1人でUターンをする。悲しくて、あたしは男を探す。そのことを、ふしだら、尻軽女と呼ぶのであっても、あたしには名誉に感じた。悲しみながらも生きているのだから・・
 あの夜と同じだ。下弦の月が見えた。それはあたしのおなかの様でもあった。生きます。必ず約束は守ります。

作品名:十和田湖畔 (2) 作家名:吉葉ひろし