星待ちの夜に。
星を見上げた日は、いつも隣に誰かがいた。そして、その誰かとの会話はたいていの場合意味を成さず、あるいは終着点が行方不明になった。流れ星は予期せぬタイミングで訪れ、どちらともなく発せられる「あっ」という声は話題のひとつひとつを吹き消していく。たわいもない話も、意を決してしようとしていた大切な話も全部。
真夜中だというのに、郊外のマンションから見える夜空はぼんやり薄い。昔見た、山の上で仰いだ深い闇の色と、星座を見つけ出すのが困難なほどの星の数。懐かしい土の香りを探してみる。でも本当は、その向こうにあるあの人のにおいを見つけたいのだと、わたしは知っている。どんなに取り繕って現実を生きていても、誰にも言えなくても。
結局、星はひとつも流れなかった。
ベットに戻ると、彼は寝ぼけながら「冷たい」と、わたしの腕に触れてそう言った。ベランダの手すりに奪われていた体温が、少しずつ少しずつ、またわたしの体を巡り始める。夜空を見上げることと祈ることはよく似ている。
今夜するはずだった願いごとを抱いて眠る。きっと、今日も夢を見る。