パラレル案内人の3か条
私はこの道10年のベテランだ」
「よろしくお願いします」
「まず先に、パラレル案内人の心得3つを伝えておく」
1、でしゃばらない
2、疑わない
3、目立たない
「いいか、この業界は完全な縦社会だ。
先輩の私の案内するパラレルワールドが
いかに優れているとしても奪ったりしてはいけない」
「なるほど、それが"でしゃばらない"ですね」
「そして、私たちのやっていることは
人助けであり慈善事業であることを
けして疑ってはいけない」
「わかりました、疑いません。
最後の"目立たない"というのは?」
「最後に自然とわかる」
説明が終わると、俺の担当するパラレルワールドが紹介された。
素人目に見ても"ゴミパラレルワールド"だとわかり、
こんな世界に誰が行きたくなるのかわからない。
「ここにあるのが君の担当するパラレルワールドだ。
君はこのパラレルワールドを案内してあげなさい」
「先輩のは……?」
「私のは、女しかいないハーレム世界や
イケメン王子様があふれかえるパラレルワールドだ」
明らかにそっちの方が人気でそう!
「私はベテランだからね。
あてがわれるパラレルワールドもいいものになる。
君のような新人は心得の1――」
「でしゃばらない、ですね」
「そういうことだ」
こうして、パラレルワールド案内人が始まった。
わかりきっていたとはいえ、誰も来やしない。
当然だ。
みんな今の世界に不満を持った人が、
パラレルワールドに行くというのに
わざわざ今より悪い世界にいく人なんてただのドMだ。
「あの、このパラレルワールド行きたいんですが」
「ドMがいたよ!?」
おそらく最初で最後になるであろう渡航者がやってきた。
「あの……いいんですか?
案内人の俺が言うのもなんですが
お世辞にもいいパラレルワールドだとは言えませんよ」
「わかっています。
僕は世界に変えてもらうのではなく、
世界を変えていきたいんですよ」
「はぁ」
男をパラレルワールドに案内してからだった。
パラレルワールドが一気に様変わりして、大人気のワールドになった。
「やった! あの人はすごい人だったんだ!」
喜んでいると、先輩が血相を変えて飛んできた。
「そのパラレルワールドは私のものだ」
「え!? だってこれは俺のだと……」
「君は新人だから何もわかっていない。
いいか、パラレルワールドの案内とは
人の人生を変える大事な行為なんだ!
いいワールドは、顔が広い私が案内するほうがいい!」
どんな大義名分を言われたところで、
先輩の"自分が一番になりたい"のが見て取れた。
「……わかりました、お譲りします」
「当然だ。心得の1"でしゃばらない"。
そして心得の2"疑わない"、ちゃんと守れているじゃないか」
俺が手に入れたパラレルワールドは奪われ、
先輩は神案内人としてその名をとどろかせ始めた。
なので、俺はますます先輩に最高のワールドを提供した。
「先輩、新しいパラレルワールドです」
「このパラレルワールドは人気間違いナシです」
「さあもっとパラレルワールドをどうぞ」
「わかってきたじゃないか、新人。
そうとも、新人はでしゃばらないのが案内人だ」
先輩の評価はうなぎ登りに上昇し、
業界の内外問わずその名を知らない人はいなくなった。
すっかり機嫌をよくした先輩は俺を呼び出した。
「新人、お前のおかげで俺は有名になれた。
そこで報酬としていくらかパラレルワールドを授けよう」
「あ、いえ結構です」
「なに? お前、私がそこそこのワールドを
わざわざ与えてやろうというのにいらないのか?」
「ええ、いりません」
「お前! 心得を忘れたのか!
心得の2"疑わない"は先輩の正しさを疑わないことで……」
説教が始まると同時に、パラレルワールド警察がやってきた。
「お前だな! パラレルワールドを不正に案内していた奴は!
許可なく案内することは未来保護法違反だ!!」
顔が警察に割れていた先輩はあっという間に捕まった。
そこでやっと先輩は気が付いたようだ。
「お前! 私に良いパラレルワールド紹介していたのは、
最初からこのためだったのか!」
「心得の3"目立たない"ですよ。
それを守らないから先輩は捕まったんです」
作品名:パラレル案内人の3か条 作家名:かなりえずき