決断恐怖症パンデミック!
人類は未曽有の窮地に立たされています。
今、人々は不治の病"決断恐怖症"になっています!』
テレビのニュースでは決断恐怖症の感染を毎日伝えている。
けれど、それもいつまで持つのか……。
テレビ関係者に決断恐怖症が感染すれば、
たちまち放送する、という決断ができなくなってしまう。
「このままでは人類は大変なことになる!
私たち、科学者の力でなんとかしなくては!」
「はい、博士!」
私の本職はロボット関連だが、
薬関係の知識もないわけではないし、
助手に至ってはその専門なので大丈夫だ。
「博士、必ず薬を完成させましょうね!」
「もちろんだ」
研究から数週間、世界の感染者数は
非感染者の数を上回っていた。
「えーー明日? うーーんどうしよう……」
「でもそれ親に相談して、先生に相談して、
親戚に相談して、友達からOKが出ないと……」
「まあ、どっちでもいいんじゃない?
決断はそっちに任せるよ」
町ではすっかり決断することが失われ、
誰もが責任転嫁するようになってしまっている。
「これは深刻だ。早く薬の開発を急がないと!」
研究室に向かうと助手がすでに来ていた。
「助手、大変だ。薬の開発を急ごう。
昨日のサンプル3番を使って……」
「でも3番で大丈夫ですかね……。
一応、ネットの評判も見ておかないと……」
「ネットになんて載ってるわけないだろ!?」
「それじゃあ別の専門家に一度聞いてみて……。
とにかく、僕一人の考えじゃ決められませんよ」
「ま、まさか……君も感染したのか!?」
「感染? 感染って誰に聞けばわかるんですか?
誰の決断が正しいんですか? 誰の判断なら……」
研究は暗礁に乗り上げた。
助手が決断恐怖症に感染してしまったために、
もはやこれ以上の薬開発は絶望的。
私はこのまま自分も感染するしかないのか……。
「いいや違う! まだできることはある!!」
薬じゃなくても、病気を治さなくても
この状況を打開する方法はあるはずだ。
もう全人類が感染者であふれかえったころ、
私の「超決断ロボ」が完成近くまで作られた。
「よし、実験してみよう。
世界でもっとも歌われている曲はなんだ!?」
『"Happy birthday To you"デス』
「か、完璧だ……!」
ロボは世界のありとあらゆる情報をかき集め、
そこから完璧な答えを返してくれる。
まさに人類の集合知をこの一台で行ってくれる。
「よし、最後の仕上げだ」
どんなに正しくてもロボットには倫理がない。
モラルがわからない、愛を学べない。
だからこそ、完璧な答えを出すために
私は、ロボの中に入り、機械の一部となった。
「これなら人間と機械の両立ができる!」
さっそく決断ロボをお披露目すると、
評判は私の想像していたものをはるかに超えていた。
「なんてすばらしいロボットだ!」
「完璧すぎる! 欠点なんてないぞ!」
「これが人類を救うきっかけなんだ!」
「そうでしょう、そうでしょう」
誰もがこのロボットの力を認めてくれた。
「では、今後このロボットの決断に従ってください。
みなさんも知っての通り、このロボットは間違えませんから」
すると、みんなの顔色が変わった。
「でも、そういう決断って私たちがしていいのかしら……」
「政府の書類で承認して、テストを10,000,000回やって、
それを役人が受理して、町の人の声が99.99%納得して……」
「今急いで決めなくてもいいんじゃないの?
ゆっくり時間をかけたほうがいい決断が出せるでしょう?」
私は忘れていた。
この世界ではロボットを実用化する、という
決断が誰にも出せなくなってることに。
作品名:決断恐怖症パンデミック! 作家名:かなりえずき