ひだまりのねこ
最初で最後の贈り物
「俺もお菓子作りたいねんけど」
学校から帰ってくるなり息子がそう言う
どうやら同級生のめいちゃんから
もらう約束をしたらしい
バレンタインデーは手作りお菓子の贈り合いっこ
そう認識している息子のために
ココアクッキーを作ることにした
春になったらドイツに引っ越してしまう
仲良しのめいちゃんのために
一生懸命、粉をこねる
恋とか愛とか
そういう感情は二人の間にはきっとなくて
けれど幼なじみの友達とはちょっと違って
男の子と女の子の
ほんの少しの気恥ずかしさと
相手を大切に思う気持ちが伝わってくる
いつもは文句ばかりの息子も
黙々とクッキーの型を抜き続ける
四年生になったらきっともういない
大人になるまでもう会えない
甘くて苦い
最初で最後の贈り物
スポーツバッグのなかにこっそり隠して
がんばって渡してくるんだよ