不老不死の囚人、母獄へ帰る
不老不死刑務所の囚人たちは今日も作業を続けている。
「はぁ、あと明日でついに出所かぁ。
この不老不死刑務所とは100年の付き合いだったけど
もうすぐ出れると思うと心がはずむなぁ」
「それで、出所したらやりたいことはあるのか?」
「もちろん! 出所したらすぐに自殺だ。
もう早く自殺したくてうずうずしているんだ」
不老不死刑務所において「死」は存在しない。
どんなに働いても、舌を噛み切っても、
首をつっても絶対に死ぬことはない。
「最後の最後で刑期延長されないように、
今日だけは絶対に目立つことはしないぞ」
俺は看守に目をつけられないよう、
とにかく目立たないように振舞った。
そのかいあって、夜まで何事もなく終わった。
「これで寝れば明日の出所だ。楽しみだな」
「ああ、ボックも楽しみだよ」
そっと目を閉じた。
ジリリリリリ!!!
けたたましい警報音と看守の怒鳴り声で目が覚めた。
「脱獄だ!! 脱獄者だ!!」
慌てて体を起こすと、同じ牢獄の同居人がいない。
「楽しみって……まさか!」
脱獄したのは俺の同居人だった。
上手く不老不死刑務所から出られたようで、
残った囚人たちは看守に呼び出された。
「わかっていると思うが、この刑務所から脱獄したものが出た!
連帯責任として全員の景気を延長する!!」
「そ、そんな……」
今日だったはずの出所は、100年後へと伸ばされた。
ゴール直前で誰かのしりぬぐいをするだなんて。
「あいつ……絶対に許させねぇ……!
俺が出所したら絶対に復讐してやる……!」
けれど出所するよりも早くに復讐のチャンスが巡ってきた。
「ただいま」
脱獄した男が戻ってきた。
不老不死刑務所を出たことで10年近くの年を取って。
「てめぇ! よくも脱獄してくれたな!
お前のせいで俺がどれだけ……」
「ああ、すまなかったな」
殴る気満々だったけど男のあっさりした態度に、
煮えたぎっていた復讐の炎は鎮火した。
「どうして戻ってきたんだよ。
せっかく脱獄で来たっていうのに」
「それがサイクルだからさ」
「サイクル?」
「不老不死の人間たちに年月の感覚を失わせないよう、
100年ごとに脱獄するんだよ。
同じような日々だとすべてのやる気を失うからな」
「そんな……!
それじゃ今まで起きていたことすべて……」
「刑務所が仕組んだイベントだ。
学校行事みたいなものさ。1年おきではなく、100年単位のな」
「でも、刑務所に戻ることは指示にないんだろ?
そのまま逃げちゃえばよかったじゃないか」
「お前も外に出ればわかる」
脱獄した男は嬉しそうに自分の独房へ向かっていった。
俺も独房に戻ると、赤い紙がベッドの下に挟まれていた。
『次があなたが脱獄の番です 看守』
紙を見た瞬間、一気に日常に色が取り戻された。
100年後の脱獄に向けて作戦を練ることがこんなにも楽しいなんて。
普段、同じような日々しか送っていなかったので
新しいおもちゃを与えられたように楽しかった。
100年サイクルの一部になることも悪くないなと思った
脱獄の日、練りに練った作戦を実行した。
ジリリリリリ!!!
俺が脱獄に成功してから、塀の向こうで警報が聞こえた。
「やった! 脱獄大成功だ! これで自由だ!」
海を越えて、ついに町に到着した。
どこで自殺するか楽しみにしていた俺だったが、
町の様子を見てそのやる気もすっかり萎えた。
「もう……絶滅……」
人類はとっくに絶滅していた。
白骨がころがり、建物は廃墟同然になっている。
「お前、脱獄したら自殺するんじゃなかったのか?」
気が付くと、不老不死刑務所の中に戻っていた。
「誰もいない場所で死ぬくらいなら……。
みんなと囲まれているこの場所で生き続けた方がいい……」
作品名:不老不死の囚人、母獄へ帰る 作家名:かなりえずき