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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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ロマンティック感情道路

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「この道路は感情道路っていうんですよ」
「へぇ」

車を走らせていると、
同乗者が先を指さして言った。

ぐるりと回る「環状道路」の聞き間違えだと思っていたけど、
道路に入った瞬間に同乗者の変わりようで
そこが"感情道路"なんだと実感した。

「コラァ! もっとスピード落とさんかぃ!
 左右確認! 後方確認!!」

「ど、どうしたんですか急に!?」

「この道は怒り道路なんだよちくしょーー!
 ああああ! むかつく! なんかむかつく!」

「えええええ!?」

今にも殴られそうな雰囲気だったので、
アクセルを踏み込んでスピードを上げる。

はやくこんな道路から出なくては。

「てめぇぇぇ!! なに制限速度オーバーしてんだコラアァァ!」

「ひいぃ! ごめんなさい!」

逆効果だった。
感情道路はスピードを上げるほどに、
その感情が強く引き出されてしまうのだった。

今日の運転が終わると、
これまでに感じたことのない疲労感に襲われた。

「はぁ……疲れた……もうあの道路は使わないようにしよう」

そう思った矢先、1台の車が感情道路から戻ってきた。

「ねぇまーくん。このまま道の駅にいかない?」
「ははは、かわいいな。しょうがない行くとするか」

「なんだこのバカップル具合は!」

降りてきた二人を俺は知っていた。
二人が同じ車で1時間もドライブすれば、
たちまち殺し合いになるほどの不仲だったのに
どういうわけか感情道路を抜けてきたのにこのイチャつき具合。

「怒り道路のほかにもあるのか……?」

気になって調べてみると、
感情道路には車線や場所によって種類があった。

悲しい道路。
喜び道路。

そして、惚れ道路。

「なになに……この道路に入ると必ずモテる!?」

これを使わない手はない。




翌日、同乗者を乗せて感情道路に向かった。

「まずは、道路の効果があるのかチェックしないとな」

「なにブツブツ言ってるんですか。運転に集中して」

俺の夢であるハーレム創設にこの惚れ道路は使える。
手始めにこの同乗者で実験してみよう。

惚れ道路に差し掛かると、一気にアクセルを踏み込んだ。
スピードを上げるほど感情道路は効果を示す。
もう勉強済みだ。

「ちょ、ちょっと!? なにを……!?」

最初は戸惑っていた同乗者だったが、
惚れ道路の効果がしっかりと現れて表情が甘くなった。

「ねぇ、君ってこんなにカッコよかったっけ……?」

「ベイビー、俺はもとからイイ男さ☆」

「私、もうあなたと離れたくない。
 どんな時もその運転する横顔を見ていたいわ」

「フッ……まいっちまうぜ」

ついハードボイルドな自分に酔ってしまったが、
感情道路を降りても一度湧き上がった感情は消えない。

同情者はすっかり俺にメロメロになっていた。
実験は大成功だ。

あとは手当たり次第に異性を車に乗せて
感情道路を走ればモテモテハーレムの生活の完成だ!




「では、今回の路上教習は不合格ということで」

同情者の教官は車を止めると、宣言した。

「ふっ、不合格!? どうして!?
 ちゃんと速度は守っていたし問題なかったでしょ!?」

「ええ、減点する部分はありませんでした」
「だったら……」

教官(62)は頬を赤らめた。

「だって、合格させたら離れ離れになっちゃうもん」


その後、自動車学校を卒業できたのは、
感情道路の効果が消えた10年後になる……。