お前は…電子レンジ…ッ!
「……機械人間症ですね。
機械がまるで人間のように見えるんですよ」
「やっぱりですか。
それで、先生は人間の医者なんですよね」
「当たり前でしょ!!」
治療のため病院にぶち込まれての入院生活がはじまった。
とはいえ、頭がちょっとおかしいだけで
体はいたって健康そのもので問題ない。
……のつもりだった。
「お会計、1000円になります」
「はい」
「お客様、そちらはその……電子レンジです」
頭が少し変だというだけで、
この世界は一気に住みにくい世界へと変わってしまった。
しばらくして、俺にアシスタントがついた。
「はじめまして、アシスタントです」
「それじゃ呼びづらい。君の名前は?」
「アシスタント、で構いませんよ。
これから身の回りのお世話すべてをお任せください」
「ああ、よろしく頼むよ。
俺一人ではどうにも失敗してしまうのだ」
アシスタントは優秀で、
俺が考えることをまるで先読みするかのように動いてくれた。
「アシスタント、退屈だから話をしてくれ」
「はい」
「アシスタント、今日は……」
「天気は晴れですよ」
「アシス……」
「はい、お風呂が沸いていますよ」
アシスタントがいるおかげで、
すっかり外に出ることが怖くなくなったのもいい傾向だった。
「お会計、1000円になります」
「アシスタント、支払いを頼む」
「はい」
アシスタントというより、もはやパートナーだった。
「あのお会計……」
外に出た翌日、医者によってベッドに縛り付けられた。
「なぜこんなことをする!
これでは動けないじゃないか!」
「残念ですが、病気が進行しているようです。
これからは外出することは絶対に許しません」
「なんでだ! こんな状態の方が体に悪いだろ!」
「とにかくダメです」
同じような答えしか返さない医者にピンと来た。
「ははぁ、さてはお前、機械だな?
さっきから同じことしか言っていないじゃないか」
「私はあなたの病状を心配してるんですよ」
「そんなに俺から治療費をむしり取りたいのか!
人の命の価値もわからないロボットのくせに!!」
当然、医者はなにもせずにそのまま去っていった。
去り際に看護師とひそひそ病状の進行がどうとか言っていた。
「……アシスタント」
「お水をどうぞ」
俺の味方はもうアシスタントしかいない。
「アシスタント、俺は……」
「間違ってなんていませんよ、大丈夫です。
どんなにあなたがダメになっても私がいれば大丈夫ですから」
その言葉に違和感を覚えた。
思い出せ。
このアシスタントは誰によって雇われた?
「そうだ……お前……俺が雇ったわけじゃない……」
「……」
「お前、そもそも医者が雇って
俺につかせたアシスタントだ……!」
「なにが……言いたいんですか?」
自分の足で歩いたのはいつだった?
自分でなにか答えを見つけたことは?
自分でやったことは?
ない。
なにもない。
俺はこの数週間ずっとアシスタントに頼っていた。
病気になる前はひとりでやっていたことも、
今ではすべてアシスタントにまかせてしまっている。
俺は今、鼻をかむことすらできない。
「お前……お前……」
「私は、あなたをダメにするためにここにいるんですよ。
死なせてはもう金を吸い出せませんからね」
看護師が慌てて病室に行ったときにはもう遅かった。
「先生……」
「ああ、もうダメだ。死んでいる」
患者は怒り狂ったように拘束を外して、
必死に逃げようとあがいたまま呼吸不全で死んでいた。
「この患者さん、前からアシスタント、アシスタントって
ずっとつぶやいていたので、危険だとは思っていたんです……。
まさか自分から装置を外すなんて……」
「最後まで、自分の生命維持装置を
本当の人間だと思っていたみたいだな……」
作品名:お前は…電子レンジ…ッ! 作家名:かなりえずき