あと21回死ねる
軽い気持ちで屋上のへりに立ったとき、
風にあおられて俺は今まさに落下中。
思い出される人生の走馬灯もないまま、
びゅうびゅうと風を切る音だけが耳に聞こえる。
「ホント、退屈な人生だった」
間もなく、地面に激しく叩きつけられ
体がトマトのようにつぶれるのが分かった。
残り残機 20
真っ暗な画面に白い文字が浮かんだ。
その後、すぐに目を開けて
自分がつぶれたはずの地面に立っていた。
「死んでない……?」
それにさっきに残機の表示って。
もしかして、俺はまだ死ねるのか。
試しに、もう一度自殺してみる。
残り残機 18
一瞬だけ文字が見えたかと思うと、
すぐに元の体に戻ってしまう。
残機19じゃなかったのは気になるけど、
それよりもまだまだ死ねることが嬉しかった。
俺はさっそく動画サイトに生放送の準備を整えた。
●REC
「というわけで、これから死んでみたいと思います」
生中継で自殺したことで一気に大人気。
この世界で「死」は一大イベント。
それがまだ使えるのなら使わない手はない。
残り残機 1
「さすがに死にすぎたな……」
死を使って、みんなにちやほやされたが
もう残機は1しか残っていない。
本来の寿命と同じ状態になってしまった。
今では普通に銀行なんかに友達と来ている。
「お前、また銀行かよ」
「ほっとけ」
保険金目当てで死んだこともあるので、
銀行に大量の金を預けるには、何度も小分けで訪れる必要があった。
金も名声も「死」から手に入れた今、
もう何も恐れるものはなくなったはずなのに……。
「全員動くなぁ! このかばんに金をつめろ!!」
このタイミングで不運に叩き込まれた。
銀行強盗はひとりなのでみんなでかかれば倒せるだろう。
でも、銃を持っているので間違いなく誰かは死ぬ。
「くそっ……残機が残っていれば……」
「おい貴様! なにぶつぶつ言ってる!
警察に通報でもしたら即ぶっ殺すからな!」
強盗は人質を集め、手際よく金を回収していく。
俺が溜めた金がこんな奴に奪われていく……。
そんなこと絶対に許してたまるか。
犯人の目を盗んで友達の掌に文字を指でかく。
"ふたりでとりおさえよう"
「わかった」
友達は目くばせすると、二人で一気に犯人に突進した。
「てめぇ!! 動くなっつってんだろ!!」
犯人は銃口を友達ではなく俺の方に向けた。
「うそぉ!?」
が、瞬時にタックルを決めた友達のおかげで
銃口が俺からそらされて天井に穴を開けただけで終わった。
「はぁ……はぁ……助かったよ」
「気にするな。お前は大切な人なんだ。死なせるわけにいかない」
俺は友達が伸ばした手に、友情の握手を――
バァンッ!!
人質の方角から聞こえた銃声。
心臓をきれいに打ち抜かれた俺はその場に倒れた。
「まだ強盗……いたのかよ……」
共犯者が人質の中に隠れていたなんて……。
ああ、もう残機は1しかないのに……。
ヒーローインタビューは……国からの表彰は……。
残り残機 1
一瞬表示された文字が見えたかと思うと、
死んだはずの銀行の中に立っていた。
「やった! やったぁ! 死んでない!!」
共犯者は銃もろとも友達によって取り押さえられた。
銀行強盗は俺たちふたりで完全に鎮圧されたのだ。
きっと近所ではヒーロー扱いされるだろう。
テレビの取材も来るに違いない。
キャバクラで武勇伝を話せばモテモテ間違いなし!
俺は嬉しさのあまり友達に駆け寄った。
「おい! やったな! これで俺たち英雄だ!」
「……なにしてくれてんだよ」
「えっ?」
「なに死んでくれてんだよ」
男同士でお互いの健闘をたたえ合うとか、
そんな展開を予想していたのに。
友達の顔は見たこともない怒りの表情をしている。
「お前が死んだせいで、俺の残機が減っただろ!」
「な、なに言って……」
「誰か死ねば、そいつの大事な人の残機が減るんだよ!
お前が死んだから残機1つ減ったじゃないか!」
それじゃ俺が見ていた残機は、
自分の命とはなんにも関係なかったんだ。
俺の大切な人がどこかで死んでいたから減っていたんだ。
「ちなみに、俺が死んで残りの残機はどれくらいになったんだ?」
「20」
「まだまだあるじゃないか!
俺なんてもう残機1しかないんだから、1つくらいいいだろ!」
俺の言葉を聞くと、友達はにいと笑った。
「へえ、お前、残機残り1しかないのか。
それはいいことを聞いた」
友達は銃口を自分自身に向けて引き金を引いた。
確実に死ぬよう急所を狙って。
「ちやほやされる英雄は二人もいらない!
悪いがお前には死んでもらって、偉業は俺がひとりじめだ!」
友達が死んだため、俺の残機は0になる。
でも、俺は死ななかった。
「……なんで死なない!?
俺が死んだらお前の残機は0だろ!?」
男は原因を理解できないまま、
強盗の共犯者と間違えられてそのまま逮捕された。
ただ、俺だけは残機が減らない理由がわかった。
「もう"大切な人"じゃなくなったからな」