死神と悪魔とステマ
地獄の3丁目で悪魔は深いため息をついた。
他の悪魔はこうしている間もどんどん不幸を販売している。
ここで何もせず触手をいじっているのは、
自分の作る不幸がほかの悪魔より価値がないに他ならない。
「はぁ……仕事が欲しいdeath」
その横に、落ち込んだ顔の死神がやってきた。
死んでいるのに、死んだ以上の絶望感が顔に浮かんでいる。
「死神、お前も仕事がないのか?」
「はい。死神も結局はネームバリューなもんで、
有名な死神にばかり魂の回収依頼が行くんデス。
私みたいなのには誰も依頼しないんデス」
落ち込むガイコツの顔を見て、
悪魔はまさに悪魔的な発想が頭を貫いた。
「そうだ! ステマだ! ステマをしよう!」
「ステマ……ああ、あれデスね。
でも、そんなのやればすぐにバレるデス」
「だから、お互いにステマするんだよ。
俺は死神の宣伝をするから、お前は悪魔の俺を宣伝しろ」
「なるほど! その手があったのデスね!!」
悪魔と死神は結託し、二人のステマ活動が始まった。
悪魔は、悪魔業界であの死神を宣伝する。
「知ってるか? 超やり手の死神がいるらしいぞ」
死神は、死神業界で悪魔の宣伝を始める。
「悪魔にも段違いの悪魔がいるらしいデス」
すると、あっという間に悪魔と死神に依頼が舞い込んできた。
「あっはっは! 笑いが止まらないぜ!
やっぱり悪魔も噂には弱いんだなぁ!」
「死神も流行には思考停止するデス。
この調子でどんどんやっていくdeath!」
悪魔と死神はさらに宣伝を露骨にして、
さも"これが主流"と思わせるように話していった。
最初の頃の慎重さなんて、とっくに失われていた。
「バレたdeath!!」
案の定、ふたりのステマは露見した。
「悪魔、どうするdeath。やりすぎたんデス。
今すぐステマを辞めないと大変なことに……」
「わかってる! わかってるが……」
初めて味わった甘い栄光の味が忘れられない。
悪魔がふんぎりをつけられないでいると、ある者がやってきた。
「私が答えを教えてましょうか?」
「誰デス? 死神じゃなさそうdeathね」
「私は****というものです。
この状況を抜けたいんでしょう?
私にいい考えがありますよ」
「聞かせてくれ。俺たちはどうすればいい?」
「簡単です。もっともっと宣伝しなさい」
その言葉を信じて悪魔と死神はさらにステマをした。
予想通り、たださえ疑われていたステマが
さらに多くの人の目にさらされてしまい大炎上。
「ダメじゃないデスか!! このウソつき!」
「いえいえ、よく見てください」
けれど、どういうわけか依頼の数は前よりも増えていた。
これだけ批判されているにも関わらず。
「炎上商法ですよ。悪い噂でも目立てるのなら勝ちなんですよ」
「助かった! ありがとう!」
「いえいえ、お気になさらず」
そいつが去ってからも悪魔と死神のもとへ届く依頼は、
炎上する前よりもどんどん増していった。
もう仕事の心配をする日々から完全に開放された。
かに思えた。
「仕事欲しいデス……」
あれだけ舞い込んできた仕事も、
いまではぱったり来なくなり悪魔と死神は干からびていた。
「なにが……悪かったんだろうな……」
「理由はひとつしかないデス」
死神が答えを言わなくても、
その答えは悪魔にだってすでにわかっていることだった。
「実力、か」
「DEATHね」
どんなに有名になったところで、
実力が伴わなければすたれていくに決まっている。
有名であることに安心しすぎて、
自分たちの実力を上げることなど考えもしなかった。
「まあ、それでも依頼はたまには来るんだし
これからは一つ一つを全力で大事にこなすしかないよな」
「そうデスね。頑張るdeath」
このままハッピーエンドに終わるつもりだったが、
悪魔はふとあることに気付いた。
「あれ? こんな広告ついていたっけ」
かつて行っていたステマ活動に、
見知らぬ広告が勝手にいくつも付けられていたことに気付く。
そこに死神が慌ててやってくる。
「大変デス! 私たちのすべての権利が勝手に変更されてるデス!」
「それってどういうことだ?」
「私たちの儲けが全部根こそぎ持ってかれてるんデスよ!」
「なんだって!?」
知らない間に契約が結ばされていた。
もちろん、誰がやったのかは明らかだ。
それはもちろん……。
「あいつ……炎上商法を持ち掛けたのも
自分は矢面に立たずに、自分を宣伝させるためだったのか……。
悪魔を騙すなんて……恐ろしい」
炎上やステマで仕事を失うのは悪魔たちだけ。
あいつは広告を出していただけなのでダメージはない。
「私たちに仕事が来なくなってもなお、
その権利を握ろうとするなんて……死神以上に死神デス」
二人はあいつの名前を思い出した。
「たしか、人間とか言ったな。恐ろしい奴……」