ウイルスホームステイ
・ホームステイ中は人と接触してはならない。
・ホームステイ中は別のウイルスを取り込んではならない。
ウイルスホームステイが決まり、
俺の方にも厳しいルールが課せられた。
「以上3点を守ってもらえればと思います」
「で、僕の家にホームステイするウイルスって?」
「お答えできません。国家機密なので」
「ええ……っ」
どんなウイルスを散布させられるのか……。
「ああ、でも私がいれば大丈夫ですよ。
最新の注意を払って感染しないよう努めますから」
「それなら……」
まあ、女性と共同生活できるというのなら
家中に危ないウイルスまかれも文句はない。
科学者は家中にスプレーをまいたあと、
僕に注射をした。ワクチンだろうか。
「あの、この注射は?」
「すみません。国家機密なので……」
こんな感じでウイルスホームステイは始まった。
てっきり体調が悪くなったり、
ともすれば体中に斑点でも出るのかヒヤヒヤしていたが。
1日2回注射を受けるくらいで日常に変化はなかった。
女の科学者は僕から採取した血液の成分を調べ、
なんだかわからない研究を続けていた。
「あの……」
「ダメですよ、国家機密なんですから」
ホームステイで時間が過ぎると、
彼女の態度も多少は崩れたがけして秘密は洩らさなかった。
「いったいどんなウイルスがこの家に……!」
僕なりに空気を採取したりはしたが、
そこは素人なのかやっぱりなにもわからなかった。
女科学者の顔色からも研究は進んでいないようだったが、
僕らがお互いに惹かれあっていることは
なんとなくホームステイ生活の中で感じ始めていた。
でも、それでも僕は今の関係が壊れるのが怖かった。
2週間後のウイルスホームステイ最終日。
「……それじゃ、ホームステイは終わりです」
「もう……帰るんですか」
「仕事ですから」
「研究は進みましたか?」
「ううん、本当に進めたかったものは、
何一つ進めなかったわ……それじゃあ」
彼女は寂しそうな顔で玄関を去ろうというとき、
僕の体は自然に動いていた。
彼女の腕を取り、勢いのまま唇を奪っていた。
彼女は頬を赤らめて顔を伏せた。
「こんなことされたら……もう全部話すしかないじゃない///」
「僕は君とはウイルスホストファミリーの関係で終わりたくない。
僕の知らない君のことを、もっとたくさん教えてほしい」
「ウイルスは感染した人を1か月後に必ず死なせるものなの。
混乱を避けるために、国では秘密にされていたの」
なんて恐ろしいウイルスなんだ。
でも、僕に心を開いて秘密を明かしてくれたことが嬉しい。
「結局、ワクチンはできなかったけどね」
「え? 注射してたじゃない、あれは?」
「あれはただの栄養剤よ」
「部屋にまいていたのは? あれがウイルスじゃないの?」
「あれはただの殺菌スプレーよ」
なんだ、ウイルスホームステイなんて言うから
家中にウイルスをまいていたのかと勘違いしていた。
それじゃあウイルスは……?
「それじゃ私はこの結果を持ち帰らなくちゃ」
「待ってくれ、最後に教えてくれ。
ホームステイしたウイルスなんてどこにあったんだ?」
「うふふ、ずっとホームステイしてたじゃない」
彼女は笑顔で自分を指さしてから答えた。
「ただこれ、キスでしか移らないウイルスなのよ」
作品名:ウイルスホームステイ 作家名:かなりえずき