正体不明のブラスバンド
吹奏楽の楽器の音が響いていた。
「ダメだ! ぜんぜんダメだ!
フルート! 全然音が聞こえてこないぞ!」
新任教師が一喝する。
『そんなこと言われても……。
そもそも俺たちに吹奏楽なんて……』
『そうそう。どうせやることもなく、
ただこの場所にとどまっていただけだし……』
「そんなやる気のない状態だから、
ちっとも楽器が吹けないんだ!
もっと執着するんだよ!!」
けれど、彼らは少しもやる気が出さなかった。
数日後、教師はいくつもの有名な吹奏楽部を音楽室に呼んだ。
「なんかこの教室、寒くない?」
「ちょっと不気味だよね」
「では、演奏をお願いします。
コンクールで発表するくらい全力で」
一流吹奏楽部の演奏を来る日も来る日も聞かせ、
ついに彼らのやる気を引き出すことに成功した。
『よし、やろう! 俺たちもあんな演奏してやるんだ!』
「その意気です!! 必ず多くの人に見てもらいましょう!」
毎日深夜の練習のかいあって、
かつては素人集団だった吹奏楽部も成長した。
もう演奏技術だけに関しては他の吹奏楽部に見劣りしないが、
いくら練習を続けても発表の場が設けられることはなかった。
『なあ、先生。いつになったら俺たちは発表できるんだ?』
「それがなかなかセッティングできなくて……。
なにせ普通の吹奏楽部じゃないですし……人が集まらないんですよ」
『だったらコンクールにでもなんにでも出してくれよ!』
「それはできないんですよ」
すっかり待ちくたびれた彼らは、
先生がいなくなってから急きょ作戦会議をすることに。
『こうなったら俺たちで宣伝活動をしよう!』
彼らは自分たちの演奏を動画で収録し、
ネットに投稿して宣伝することにした。
これで少しは宣伝になるかと思っていたが、
どういうわけかあっという間に削除されてしまった。
『せっかく投稿したのに削除されてるぞ!?』
『削除理由は……多くの人に恐怖を与える不適切動画ぁ?』
『そんなに下手なのか……くそっ』
すっかり自信を失ってしまっていた彼らのもとへ、
先生がぜえぜえ息をしながらやってきた。
「決まったぞ!! ついに演奏会が決まった!!」
数日後、深夜の音楽室には多くの人が詰めかけた。
それらはすべて先生がじかに声かけした人たちだった。
「みんな今日は演奏会だ。
悔いの残らないように、完全燃焼するくらいに、
未練が吹き飛ぶような演奏をしてほしい」
『もちろん!!』
待ちに待ったお披露目に彼らは意気揚々と進んだ。
そして、これまでで最高の演奏をしてみせた。
最初は怯えや恐怖の色が多かった観客たちも、
その見事な演奏に惜しみない拍手を送った。
演奏会終了後、先生のもとへ校長がやってきた。
「本当にありがとう。
君のおかげで学校も廃校から救われたよ」
「いいえ、あくまで除霊師の仕事をしたまでです」
「本当に、地縛霊はこの学校に一層されたのかね?」
「ええ、もちろん。
すっかりこの世に未練がなくなるほど演奏して成仏しましたよ」
「助かったよ。地縛霊の噂だけがこの学校の評判を落としていたからね」
除霊師は先生の制服をぬぐと、
残されたままの吹奏楽器を片付けた。
作品名:正体不明のブラスバンド 作家名:かなりえずき