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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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正体不明のブラスバンド

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人がいなくなった深夜の学校で、
吹奏楽の楽器の音が響いていた。

「ダメだ! ぜんぜんダメだ!
 フルート! 全然音が聞こえてこないぞ!」

新任教師が一喝する。

『そんなこと言われても……。
 そもそも俺たちに吹奏楽なんて……』

『そうそう。どうせやることもなく、
 ただこの場所にとどまっていただけだし……』

「そんなやる気のない状態だから、
 ちっとも楽器が吹けないんだ!
 もっと執着するんだよ!!」

けれど、彼らは少しもやる気が出さなかった。
数日後、教師はいくつもの有名な吹奏楽部を音楽室に呼んだ。

「なんかこの教室、寒くない?」
「ちょっと不気味だよね」

「では、演奏をお願いします。
 コンクールで発表するくらい全力で」

一流吹奏楽部の演奏を来る日も来る日も聞かせ、
ついに彼らのやる気を引き出すことに成功した。

『よし、やろう! 俺たちもあんな演奏してやるんだ!』

「その意気です!! 必ず多くの人に見てもらいましょう!」

毎日深夜の練習のかいあって、
かつては素人集団だった吹奏楽部も成長した。

もう演奏技術だけに関しては他の吹奏楽部に見劣りしないが、
いくら練習を続けても発表の場が設けられることはなかった。

『なあ、先生。いつになったら俺たちは発表できるんだ?』

「それがなかなかセッティングできなくて……。
 なにせ普通の吹奏楽部じゃないですし……人が集まらないんですよ」

『だったらコンクールにでもなんにでも出してくれよ!』

「それはできないんですよ」

すっかり待ちくたびれた彼らは、
先生がいなくなってから急きょ作戦会議をすることに。

『こうなったら俺たちで宣伝活動をしよう!』

彼らは自分たちの演奏を動画で収録し、
ネットに投稿して宣伝することにした。

これで少しは宣伝になるかと思っていたが、
どういうわけかあっという間に削除されてしまった。

『せっかく投稿したのに削除されてるぞ!?』

『削除理由は……多くの人に恐怖を与える不適切動画ぁ?』

『そんなに下手なのか……くそっ』

すっかり自信を失ってしまっていた彼らのもとへ、
先生がぜえぜえ息をしながらやってきた。

「決まったぞ!! ついに演奏会が決まった!!」


数日後、深夜の音楽室には多くの人が詰めかけた。
それらはすべて先生がじかに声かけした人たちだった。

「みんな今日は演奏会だ。
 悔いの残らないように、完全燃焼するくらいに、
 未練が吹き飛ぶような演奏をしてほしい」

『もちろん!!』

待ちに待ったお披露目に彼らは意気揚々と進んだ。
そして、これまでで最高の演奏をしてみせた。

最初は怯えや恐怖の色が多かった観客たちも、
その見事な演奏に惜しみない拍手を送った。




演奏会終了後、先生のもとへ校長がやってきた。

「本当にありがとう。
 君のおかげで学校も廃校から救われたよ」

「いいえ、あくまで除霊師の仕事をしたまでです」

「本当に、地縛霊はこの学校に一層されたのかね?」

「ええ、もちろん。
 すっかりこの世に未練がなくなるほど演奏して成仏しましたよ」

「助かったよ。地縛霊の噂だけがこの学校の評判を落としていたからね」

除霊師は先生の制服をぬぐと、
残されたままの吹奏楽器を片付けた。