気持ちのままに
白い皿
テーブルの上に大きな白い皿が1枚載っている。僕は椅子に座りただ1人で、コーヒーを飲んでいる。仕事に追われ、つかの間のゆとりの時間だ。白い皿には初めから何も乗っていない。それはノートに書き記された文字のように、あるいはスクリーンのように過去を思い出させてくれた。
随分と長い時間を過ごして来た訳なのに、思い出される時間はとても短い。辛いこと。楽しいこと。哀しいこと。
多分、今あるこの時間も時も、何年か先には自分の記憶から忘れ去ってしまうに違いない。
そうであったとしても、この白い皿に盛られた今の時間の御馳走は贅沢なものであるし、実に味がある。
「あなたの愛があれば何もいらない。コロッケだけの夕食で十分だから・・」
「こんなお給料では何も食べられないわ」
「子供たちの教育だってあるのよ」
「やっとほっとしたわ」
そんな声も聞こえる。そして妻は病気になった。今はとても元気だけれど・・
もう少し、この白い皿に山盛りの時間が欲しい。
コーヒ-が冷めて来たようだ。久しぶりの休日。妻は夕食の買い物から帰るころだ。仔犬たちが鳴き出した。