気持ちのままに
夏の終わりに
夏の終わり。明日からは学校も始まる。僕は気まぐれに妻に言った。
「海に行こう」
僕の住む県には海は無いが、今では高速道路を使えば2時間とはかからない。
海にはまばらに海水浴をしている人たちもいた。ピーチパラソルが弱い太陽の日差しを受けている。濁った海水が波を立てている。波先の気泡は白く雪のようにさえ感じる事も出来る。
若い時を思い出す。サンオイルを塗った妻の肌は、海から上がるたびに沢山の水玉をつけていた。それが朝露を載せた葉っぱのようで、美しく観えた。
その真珠を掬うように舌先を妻の肌に当てると
「こんな場所で」と妻は逃げた。
若かった。
僕は海を観ながら、ぼんやりと他の事も考えていた。還暦を過ぎた僕たちは、すでにセックスの事は忘れかけていた。それに、何回か見たビデオの様な行為もした事も無い。する気にもならなかった。愛情は言葉や金銭に重きを置いていた。
有るサイトで、作品を読みながら、何か置き忘れた感じを受けた。それはセックスのあり方である。羞恥心が先に立ち、理性が邪魔をしてしまう。
愛し合う者なら、枠をはみ出しても、新しい悦びを得ても許されるのではないか?
僕たちは年を取り過ぎたかも知れないが、肌の会話もときどき必要ではないかと思うようになった。