気持ちのままに
彼岸
彼岸花の咲く小路を山に向かって歩くが、身体は汗が滲み、呼吸も荒くなっていた。妻も私以上に苦しいのだろう、私から離れてしまった。私は手桶に水を入れる時間がある事を考え、そのまま歩いた。妻は境内の花屋から花を買っていたから、ますます私との距離が離れた。手桶2つに水を入れ、墓の掃除を済ませておこうと思い、妻を待たずに墓に向かった。
盆の時の花が萎れて、花立の水からは異臭がしていた。彼岸の初日で、人はまばらであり、異臭はあちらこちらから臭っていた。今ではどこの墓もきれいになって来た。豊かになり、生命保険のおかげかも知れない。
石塔に水をかけ、タオルで拭く、石塔の側面の父や母の刻まれた文字の汚れに水をかけ、指先にタオルを巻き擦る。
「綺麗になりましたね」
妻がようやく追い着いた。荒い息が年を感じる。
妻も私もこの墓に入る。荒い息でたどり着いた自分たちも、確実に死を迎えなくてはならない。そのことを気づかさせてくれた今の時間が、とてもすがすがしかった。
墓を離れる時、妻は私の手を求めた。妻も私と同じことを想っているのだろうと、私は妻の手をしっかりと握った