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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 24

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第84章 復讐の堕騎士と救済者


 センチネルは目隠しにされた布を取り払い、立ち上がった。
 目の前には、ヒナが分身したのかと思えるほど、彼女に瓜二つの男が立っている。
 センチネルの記憶が正しければ、男の名はシンといい、一月前デュラハンがこの世界に現れた日、センチネルに挑んだがまるで歯が立たなかった者である。
「貴様、シンといったな? 俺に不意打ちを与えるとは、ずいぶん腕を上げたものだな……」
 シンはニヤリと笑う。
「なに、さっきのお前はまるで周りが見えてなかったようだからな。まぐれだよ」
 一月前に対峙した時に比べ、シンにはずいぶんと余裕が見られた。姿形に大きな変化はないものの、そうとう強くなっているのが窺えた。
 ただ一つ変化している場所といえば、ヒナと同様の翡翠色の眼をしている所である。ヒナのいう力通眼という能力に目覚めた証に他なかった。
「さて、さっそくやりあいたい所だが、少し待ってはくれないか? 姉貴の手当てをしたい。それにセンチネル、お前の方も傷だらけだ。そんなお前と戦っても意味がない。その再生能力で傷を癒しな」
 まだ一太刀も交えていないのに、シンはセンチネルの特殊能力を看破していた。センチネルは思わず驚いてしまう。
「貴様、なぜ俺の能力を?」
「鎧やら服やらがそんなにボロボロなのに、体の方はそれほどでもない。だったら回復する能力があると考えるのが道理だ。別に力通眼なんか使わなくてもいい、簡単な推測だと思うぜ?」
 シンは力通眼を使うことなく、センチネルの再生能力を見破っていた。
 シンの観察眼、及び洞察力はかなりの水準まで上がっている。センチネルはここは彼の言う通りにすべきと考えた。
「ふん、ならばお言葉に甘えるとしよう……」
 これから始まろうとしているシンとの戦いは、一ヶ月前のものとは比べ物にならない激戦になるであろうという予感が、センチネルの頭を過る。
 センチネルの予感はある種の期待にも近かった。これから強者と戦い、自らを高められようという期待に。
 センチネルは精神を落ち着け、自己再生が促進するようにした。
 シンは、脇腹から流血して地面に膝をつくヒナの背に触れてしゃがみこんだ。
「姉貴、大丈夫、じゃないよな」
「……ふふ……っく……! 来るのが、遅いわよ……」
「悪いな、これでもすっ飛ばして来たんだが。まあいいや、姉貴、ちょっと失礼するぜ」
 シンはヒナの着物を脱がせた。ヒナのふくよかな胸が露になる。
 そしてシンはその胸には目もくれず、ヒナの脇腹の方を見た。
 脇腹の端の筋を斬られているが、どうやら内臓までは刃が届いていないようだった。しかし傷は深く、血は止めどなくあふれでている。
 加えてヒナの消耗は激しく、早急に処置しなければ危険なことは明確であった。
「こいつはひどいな……。メアリィ、エナジーで傷を塞いでくれ」
 シンは傷の状態を確認すると、ヒナの着物を元通りに着させた。
「もちろん。ですが、体力までは全快にできませんわ。しばらく安静にしていなくては……」
 ヒナが使っていた止刻法は、彼女から相当な体力を奪っていた。傷が回復したとしても、ヒナはしばらくの間は満足に歩くこともできないほど弱っていた。
「それなら心配ない。ともかく血を止めてこれ以上の体力消費を抑えるんだ。後の事はオレに任せろ。まずは頼むぜ、メアリィ」
 どうやらシンに何か考えがあるようだった。シンは自らの考えを教えてくれなかったが、メアリィも処置が最優先と考えシンに従うことにした。
『アーネスト・プライ!』
 メアリィは最上級の回復エナジーを発動した。水のエレメンタルを象徴する青い光がヒナを包み、流れる水のベールがかかった。
 ヒナの目を逸らしたくなるような傷は、青き輝きの中で急速に治癒していった。
「はあ……、はあ……」
 傷は癒えたが、ヒナの呼吸は荒いままである。メアリィのエナジーをもってしても、やはり体力は回復していなかった。
「ヒナさん、どうしたら……」
 メアリィは、高熱にうなされるかのようなヒナを、心配そうに見つめる。
「大丈夫だメアリィ、お前が姉貴の傷を塞いでくれたから、これ以上体力は消耗しない」
 シンはヒナを仰向けにして地面に横たえた。そして懐に手を入れ、小さな布袋を取り出した。袋の口を開け、逆さまにすると、茶色の飴玉のようなものがシンの手のひらに転がる。
「それは……」
 メアリィには、シンが取り出したものの正体がすぐに分かった。
 口に入れれば、えもいわれぬ臭いが鼻腔を満たし、かじろうものならば、ドロドロした液体が中から漏れ出る。
 飲めばたちどころに体力が増加する代わりに、しばらく不妊になる副作用を持つ、ごく最近にヒナからもらった超兵糧丸なる丸薬に違いなかった。
 超兵糧丸を見た瞬間、メアリィは誤ってかじってしまった時の感触を思い出し、顔をしかめてしまった。シンはそんなメアリィの様子に首をかしげる。
「どうしたんだ、そんな苦虫を噛み潰したような顔をして?」
「いえ、あの……、それって超兵糧丸ですよね……?」
「よく分かったな、その様子じゃどうやら、食ったことがあるみたいだな」
 メアリィの予感は的中し、口の中がドロドロになったあの感覚が蘇るような感じがした。
 しかし、不快な食感さえ我慢すれば、体力増強できるのは間違いなかった。
「そういやジャスミンのやつ、こいつを旨いって喜んで食ってたな。全く、イズモ村の外の人間は味覚が狂ってんのかと思ったが、メアリィのその反応をみて少し安心したよ」
 メアリィにも、同じような反応を示した男を知っている。
「……ロビンも喜んで食べていましたわ」
 シンは驚いた。
「そんなバカな! うーん、味オンチってのは本当にいるのかねぇ……。まあいいや、今はともかく姉貴に元気になってもらわなきゃな」
 シンはヒナの口に丸薬を運んだ。しかし、ヒナの衰弱は激しく、噛むどころか飲み込むのも難しい状態だった。
「食べてくれませんね……」
 メアリィは苦痛に歪むヒナの顔を覗き込む。
「ちっ、仕方がねえな……」
 シンは舌打ちし、苦渋の判断を下した。ヒナの鼻をつまみ、口を開けさせる。そしてシンは丸薬をヒナの口ではなく自らの口に放り込んだ。
 噛んだ瞬間、シンは渋い顔をした。いそいで腰に下げた竹筒の水を口に含む。
「し、シン!?」
 シンはヒナの唇に自らの唇を当てた。傍目から見れば口づけそのものだが、シンは口の内容物をヒナの口内に流し込んだ。
「っ! んぐっ、むぐっ!」
 ヒナは突然口の中に入ってきた異物にむせかえり、吐き出そうとしたが、シンが口で口を完全にふさいで絶対に出させなかった。
 何度も逆流しかかったが、シンは口移しでヒナに超兵糧を飲ませることができた。
「ぺっぺ! ……ガラガラ、ぺっぺっ!」
 シンは竹筒の水でうがいをしながら、口の中に広がった超兵糧の残りを吐き飛ばした。
「ぺっぺっ! ああ、まっず! 噛んだのは失敗だったぜ……!」
 シンは口元を拭う。
「シン……」
 純粋な心のメアリィは真っ赤になっていた。
「何て事をしているのですか!? 女性の、いや、それ以前に実のお姉様の唇を奪うなんて!」